日本の高級セダンの代名詞的な存在であるクラウンのメインエンジンが、伝統の6気筒から4気筒に変わりました。
2018年6月にフルモデルチェンジをして15代目となったクラウンからは、直列4気筒2Lターボと2.5L+ハイブリッドがメインのパワーユニットになっています。
これまでのマジェスタの代わりとなる最上位グレードに6気筒エンジンは残されていますが、それ以外のグレードにはすべて4気筒エンジンが搭載されています。
クラウンといえば、6気筒のエンジンを搭載しているという点に、大きな魅力を感じているオーナーも少なくなかったと思います。
「大衆車=4気筒」「高級車=6気筒」といったイメージがこれまで根強くありました。
6気筒と4気筒では、明らかにエンジンのフィーリングが異なるからです。
はたして、古くからのクラウンファンは、4気筒エンジンで納得できるのでしょうか?
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昔から高級車というのは6気筒のエンジンを積んでいました
クラウンに限らず、高級車というのは6気筒のエンジンを積んでいるというのがこれまでの常識でした。
エンジンのフィーリングに、4気筒と6気筒ではあきらかな違いがあるからです。
もちろん、コストのかかっている複雑なメカニズムのエンジンを載せているという点も、オーナーの満足感を高めていたに違いありません。
かつては、V型6気筒エンジンを搭載していることを主張する「V6」というエンブレムを、誇らしげにつけているクルマも多かったものです。
そういう時代を生きてきた人にとっては、どんなに最先端の装備を搭載していようが、車内をすべて革張りにして高級感を演出していようが、エンジンが4気筒というだけで購買意欲が低下してしまうに違いありません。
先ほども書きましたように、ある年代より上の世代には「高級車=6気筒」「大衆車=4気筒」という、根強い先入観があるからです。
グレードによっても異なりますが、クラウンの車両本体価格が500万円前後になります。
500万円もする車のエンジンが4気筒であることに、不満をおぼえる人は少なくないはすです。
ハイブリッドシステムが採用されているとはいっても、そもそもハイブリッド車は高級車というくくりではないからです。
プリウスやアクアを高級車と呼ぶ人はいないはずです。
最近の4気筒は静粛性がアップしているから問題ない?
たとえ4気筒エンジンであっても最近のエンジンは静粛性が向上しているし、モーターと併用するハイブリッドであれば、高級車として問題ないレベルのフィーリングを確保できると主張する人もいます。
しかし、どんなにエンジンが進化をしたとしても、ピストンが上下に動くという構造上、どうやっても振動やノイズをなくすことはできません。
そういったピストンが上下することによって発生する振動を、理論上ゼロにすることができたのが、ストレートシックスと呼ばれる、直列6気筒エンジンでした。
実際には、理論通りに完全に振動を打ち消すことはできませんが、そのスムーズなエンジンフィーリングは、直列4気筒とくらべると明らかに異質な感覚でした。
直列6気筒がシルキーシックスなどと呼ばれたりするのは、文字通り絹のようにきめ細かなエンジンフィーリングだからです。
直列4気筒エンジンでは、バランサーなどによる振動対策をどれだけ行っても、構造的に6気筒エンジンなみのスムーズさを得ることはできません。
ハイブリッド形式でモーターと組み合わせることで静粛性はアップすると思われるかも知れませんが、必ずしもそうとは限りません。
確かに一定の速度でクルージングしているときには、直列4気筒であっても6気筒であっても、静粛性にそれほど差は感じません。
また、ハイブリッドカーは停車しているときや、超低速走行時にはエンジンが止まっていますので、エンジンの音が聞こえることはありません。
しかし、追い越しなどで急加速をするときや急な坂を上るときには、4気筒独特の耳障りなノイズが耳に入ってきます。
この点は、クラウンに搭載されている4気筒エンジンであっても基本的に変わることはありません。
実際に、4気筒クラウンを試乗した人の多くから、加速時の高級車らしからぬエンジンノイズが指摘されています。
ハイブリッドシステムのクルマはCVTを採用しているために、加速時や登坂時などはエンジンの回転数が実際の速度以上に上昇するという特徴があります。
クルージング時には気にならなかった4気筒エンジン特有の安っぽいノイズが、こういったときにはどうしても耳に入ってきてしまうわけです。
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2代目以降ずっと6気筒エンジンが主力だったクラウン
クラウンは初代こそ直列4気筒のみのラインナップでしたが、1962年に発売された2代目から2003年まで販売された11代目までは、一貫して直列6気筒エンジンを採用してきました。
当時のクラウンのオーナーたちは、高速道路の料金所を抜けたあとの加速時に聞こえてくる、シルキーシックスの上質なエンジン音に酔いしれていたものです。
そんなクラウンも、ゼロクラウンと呼ばれる12代目からは、伝統の直列6気筒エンジンを捨ててV型6気筒が採用されることになりました。
同じ6気筒であっても、V型6気筒と直列6気筒をくらべたら、あきらかに直列6気筒の方が上質なフィーリングです。
しかし、多くの自動車メーカーは直列6気筒を捨ててV型6気筒を採用する流れとなっていましたので、クラウンも必然的にその流れにしたがうことになったのです。
直列6気筒のエンジンは縦に細長い形状のため、搭載するためにはどうしても長いボンネットが必要になります。
室内の広さを重視する現代のクルマにとって、長いボンネットを採用するというのは、デザイン的には非効率になります。
クラウンがシルキーシックスを捨てて、室内の広さを確保するためにV型6気筒を採用することになったのは、ある意味では仕方のないことといえます。
ちなみに、国産の直列6気筒を搭載したクルマは2007年にすべて姿を消しています。
関連記事:直6エンジン(ストレートシックス)はなぜ廃れてしまったのか?
もちろん、V型6気筒であっても、直列4気筒にくらべるとフィーリング的にはぜんぜん上質です。
古くからのクラウンのオーナーも、シルキーシックスにくらべると不満はありつつも、なんとか高級車として納得できるレベルのエンジンフィーリングは感じていたと思います。
しかし、15代目となる現行のクラウンロイヤルは、そのV型6気筒さえもすてて、直列4気筒とモーターによるハイブリッド方式のパワーユニットが主流になってしまいました。
ついに、高級車クラウンに、これまで大衆車のエンジンだと思われていた4気筒がメインエンジンとして採用される時代になってしまったわけです。
実際に4気筒のクラウンのフィーリングはどうなのか?
実際に、2.5L直列4気筒エンジンを搭載するハイブリッドタイプの、エンジンフィーリングはどうなのでしょうか?
ネット上のインプレッションを見ると、平坦な道路での静粛性はV型6気筒エンジンと遜色ないが、アクセルを踏み込んだときにはどうしても4気筒であることを意識してしまうようです。
加速をするときの「ヴォ~ン」という安っぽいエンジン音は、高級車クラウンにはふさわしくないという意見が多くなっています。
また、ディーラーなどで試乗させてもらうときにも、かつてのクラウンにくらべてエンジン音がうるさくなっていることを営業マンも素直に認めているようです。
とくに直列6気筒時代の「シュ~ン」といったきめ細かなエンジン音を知っている人にとっては、これが本当にクラウンかと思ってしまうレベルでしょう。
やはり、世界に誇るトヨタの技術を持ってしても、直列4気筒エンジンで6気筒エンジンなみのフィーリングや静粛性を確保するというのは難しいのでしょう。
また、クラウンのような高級車というのは、ロードノイズや風切り音といった騒音対策を徹底的にやっています。
そのため、皮肉なことにエンジン音が相対的によく聞こえてしまうのです。
大衆車では他のノイズにかき消されてそれほど気にならない4気筒特有のエンジン音も、高級車の場合は静かであるがゆえに目立ってしまうのです。
たとえエンジン音が目立ったとしても、それが上質なフィーリングのエンジン音であれば人間というのはそれほど不快には感じないものです。
しかし、「ブォー」というあきらかに安っぽい音が耳に入ると、どうしても不快感をおぼえてしまいます。
高級車であるクラウンが本当に4気筒でいいのか?
確かに、軽量化や燃費といった点を考えると4気筒エンジンにはメリットがあるのでしょう。
しかし、日本を代表する高級車であるクラウンの進むべき方向性は、本当にそれでいいのでしょうか?
そもそも、車両本体価格が500万円もする高級車を購入する人たちが、それほど燃費に神経質になるとは思えません。
ガソリン代は少しくらいかかってもいいから、上質なエンジンフィーリングのクルマに乗りたいというのが、本来のクラウンのオーナーなのではないでしょうか?
もちろん、ハイブリッド車はエンジンとモーターを併用するシステムのため、6気筒エンジンを搭載するなんてもったいないという意見もあるのでしょう。
しかし、そもそももったいないことをするのが高級車です。
高級車では定番となっている上質な内装や最新の快適装備も、すべてもったいないものばかりです。
もったいないという付加価値をつけて、オーナーに満足感を与えるのが高級車です。
高級車であるクラウンには、たとえハイブリッド車であっても、あえて6気筒というもったいないエンジンを搭載してほしかったと思っているのは、私だけではないでしょう。
クラウンは、残念ながら静かで上質なエンジンフィーリングを楽しめる高級車ではなくなってしまったのです。
クラウンに水平対向4気筒エンジンなんてどうですか?
クラウンに今後もずっと4気筒エンジンを採用するのであれば、思い切って水平対向4気筒エンジンを搭載するのはどうでしょうか?
水平対向4気筒エンジンというのは、2気筒ずつを左振り分け、それぞれが180度開いた構造になっているエンジンです。
水平対向エンジンは、左右に振り分けられたシリンダー内のピストンがお互いの振動を打ち消し合う構造になっているために、振動が少なくスムーズにまわるという特徴があります。
6気筒には及ばなくても、直列4気筒とくらべれば十分に上質なフィーリングを味わうことができます。
また、水平対向4気筒は、シリンダーを左右に2つずつ振り分けるという複雑な構造のため、メカ的にも高級車のパワーユニットとしての条件を満たしています。
とはいえ、国内で水平対向エンジンを制作しているのはスバルだけであり、トヨタがわざわざクラウンのためだけに水平対向エンジンを開発するというのは現実的ではありません。
関連記事:スバルはなぜ水平対向エンジンにこだわり続けるのだろうか?
それならば、スバルからエンジンを供給してもらえばいいのです。
それも現実的ではないと思うかも知れませんが、実はトヨタから発売されているクルマでスバルの水平対向エンジンを搭載しているクルマがあるのです。
それが「86」というスポーツカーです。
「86」はスバルと共同開発されたクルマで、そのパワーユニットはスバル製の水平対向4気筒エンジンが積まれています。
スムーズな水平対向4気筒エンジンとモーターの組み合わせによるハイブリッドシステムを搭載したクラウンというのも十分に魅力があるクルマだと思います。
ただし、水平対向エンジンは排気音が独特で、「シュボボボ・・・」というポルシェのような音が、高級車クラウンに合うかどうかは微妙なところです。
6気筒エンジンは一部のお金持ちしか乗れなくなってしまうのか?
クラウンのエンジンが基本的に直列4気筒になってしまった現在、6気筒エンジンの上質なフィーリングを味わいたいという人は、最上位グレードの3.5Sや3.5 RS Advance、3.5 G-Executiveを選択するしかありません。
これらのグレードの車両本体価格は620万円~720万円ほどになりますので、一般の人が簡単に手の出せる価格帯ではありません。
参考:トヨタクラウン公式サイト
14代目のクラウンであれば、V型6気筒を搭載したモデルが373万円で購入できました。
ついこの間まで373万円だせば6気筒エンジンの上質フィーリングを味わうことができたのに、2018年6月以降は620万円以上を出せる一部のお金持ち以外は6気筒エンジンのクラウンに乗ることができなくなってしまったのです。
また、11代目までのクラウンに採用されていた直列6気筒エンジンを搭載しているクルマに乗りたいのであれば、BMWなどの海外の高級車に目を向けるしかありません。
BMWの直列6気筒エンジンは、まさにシルキーシックスという名に恥じない、絹のようにきめ細かなフィーリングのエンジンです。
BMWの直列6気筒のエンジンフィーリングを一度味わってしまうと、他のエンジンのクルマには乗れなくなってしまうといわれています。
もちろん、BMWの直列6気筒エンジン搭載車もクラウンの最上級グレード同様に、一般庶民が簡単に手を出せるような価格帯のクルマではありません。
われわれ一般庶民が6気筒エンジン特有の高級なフィーリングを味わうことは、今後はできなくなってしまうのでしょうか?
エンジンにピストンが6個ついているというだけで、ものすごくステータス性を感じてしまうような時代がいよいよ来てしまうのかも知れません。
文:山沢 達也
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