かつて、高級車やスポーツカーの代表的なエンジンといえば、直列6気筒エンジンでした。
ベンツやBMWといった国外の高級車はもとより、国産車においてもクラウンやセドリックといった高級車には、直列6気筒エンジンがあたり前でした。
また、トヨタ2000GTやスカイラインのGT-Rといったスポーツカーも、直6のDOHCエンジンが積まれていました。
ところが、最近の6気筒エンジンはV型6気筒が主流になってしまい、ストレートシックスと呼ばれる直6エンジンを搭載しているクルマはほとんど見かけなくなりました。
いったい、なぜストレートシックスはすたれてしまったのでしょうか?
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直列6気筒エンジンがすたれてしまった理由
1990年代の後半から、国内外の自動車メーカーは、これまでストレートシックを搭載していた車のエンジンを、徐々にV6へと切り替えていきました。
ベンツが1997年に初のV6エンジンを投入したときは、世界中が驚きました。
また、日本においても高級車の代名詞的な存在であったトヨタのクラウンが、2003年に発売になった12代目から、伝統の直6エンジンを捨ててV6エンジンに切り替えました。
いったい、なぜ直6エンジンはこれほどまでに嫌われることになってしまったのでしょうか?
・V6エンジンの方がパッケージング面で有利
直6エンジンがすたれてしまった一番の原因としては、V6エンジンにくらべてパッケージングの面で不利だということがあります。
現在のクルマは、少しでも室内を広くするために、ボンネットのスペースがとても狭くなっています。
特に、6つのシリンダーが縦にならぶ直6エンジンは、どうしても形状的に縦長になってしまうため、そのエンジンを収めようと思うと長いボンネットが必要になるわけです。
限られたクルマの全長のなかで長いボンネットを確保しようと思えば、どうしても室内が犠牲になって狭くなってしまいます。
ところが、3気筒ずつを左右に配置したV型6気筒エンジンであれば、直6にくらべてエンジンの長さが短くなります。
エンジンの長さが短くなれば、ボンネットの長さも短くて済み、結果として広いキャビンを確保することができるわけです。
実際に直6を積んでいた頃のクラウンと、現在のV6を積んだクラウンをくらべてみますと、ボンネットの長さが全く違うことに気がつくと思います。
室内に関しては、現在のクラウンの方が圧倒的に広いことは言うまでもありません。
また、最近はミニバンが大変人気になっていますが、このミニバンのボンネットはさらにコンパクトになっています。
このコンパクトなボンネットに直6エンジンを収めることは困難なため、6気筒のエンジンを積もうと思えば、必然的にV6エンジンしか選択肢がなくなってしまうわけです。
参考記事:クラウンからとうとう6気筒モデルが姿を消します~高級車が4気筒で本当にいいの?
・衝突安全性能の面で直6は不利になる
縦に長い直6エンジンは、ボンネットのなかにギリギリ余裕のない状態で収められることになります。
もし、クルマが前面からぶつかった場合に、その衝撃でエンジンが後ろに下がってきてキャビン内を圧迫する可能性があります。
ところが、V6エンジンであれば、ボンネット内に余裕ができるために、クラッシャブルゾーンを確保することができるわけです。
クラッシャブルゾーンというのは、クルマが衝突したときに潰れることで、その衝突エネルギーを吸収するスペースのことです。
こういった安全面から、直6よりもV6方法が有利であるとの判断があったことも、直6エンジンがすたれる原因の1つになっています。
・FFのクルマが増えてきたことも原因の1つ
最近のクルマの多くはFF(前輪駆動)を採用しています。
FR(後輪駆動)だと後輪を回転させるためにフロアー下にプロペラシャフトを設置しなければなりません。
そのため、どうしても室内の真ん中が盛り上がる形になってしまい、パッケージング的にはあまり良くないことになります。
FFであれば、プロベラシャフトがないために、フロアーがフラットになり広い室内が確保できることになります。
こういったメリットがあるために、最近はFF形式のクルマが多くなっているのですが、FFの場合は前輪を駆動するためにエンジンを横置きにする必要があるのです。
さすがに、6つのシリンダーが一直線にならんだストレートシックスのエンジンを、横向きに積むというのは困難です。
過去にボルボなどが無理をして積んだことがあるようですが、一般的ではありません。
ところが、ほぼ正方形に近い形のV6エンジンであれば、縦に積んでも横向きに積んでも、スペース的にはほとんど変わらないことになります。
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本当は魅力的がいっぱいの直6エンジン
最近はすたれてしまった直6エンジンですが、実はデメリットばかりではありません。
かつてストレートシックスのクルマに乗ったことがある人は、その魅力を忘れることは出来ないでしょう。
特に、その滑らかなエンジンフィーリングは特筆ものです。
エンジンというのは、ピストンが上下に動いているわけですから、どうしても振動が発生します。
しかし、直列6気筒エンジンというのは、理論上はまったく振動を出さない完全バランスのエンジンなのです。
6つのシリンダーが等間隔で爆発をすることで、お互いの振動を打ち消しあう構造になっていて、モーターのように滑らかに回るわけです。
もちろん、理論通りに完全に振動がなくなるわけではありませんが、他のエンジンとくらべるとあきらかに振動の少なさを感じるはずです。
高級車の代名詞的存在であったクラウンが、伝統的に長らく直6エンジンを採用してきた背景には、このエンジンフィーリングが高級車にふさわしいということがあったと思います。
評価の高いBMWのシルキーシックス
ベンツが1990年代後半に直6からV6に路線を変更したのに対して、あえて直6にこだわり続けたのがBMWです。
BMWの直列6気筒エンジンは、シルキーシックスなどと呼ばれ、そのスムーズさは昔から絶賛されています。
絹のようにきめ細かなエンジンフィーリングという意味から、シルキーシックスと呼ばれているのでしょう。
世界中の高級車のエンジンがV6へとシフトしていくなか、BMWだけはずっとこのシルキーシックスにこだわり続けました。
クラッシャブルゾーンの確保が難しかったり、ボンネットの長さを確保するために室内の広さが犠牲になるなどのデメリットがあったとしても、絹のように滑らかに回るエンジンを捨てることは出来なかったのでしょう。
また、過去に直列6気筒エンジンのフィーリングを味わった人はそれを忘れることができず、ストレートシックスに乗りたいという理由だけでBMWを購入する人もいるのです。
BMWの公式サイト:https://www.bmw.co.jp/
日本国内では2007年に直6エンジンが絶滅しました
BMWが現在も頑なに直6エンジンにこだわり続けているのに対して、国産車の直6エンジンはすでに絶滅してしまっています。
日本のメーカーで直6エンジンを制作していたのは、トヨタと日産の2社だけなのですが、どちらのメーカーも現在は直6エンジンを積んだ車を販売していません。
国産最後の直6エンジン搭載車となったのは、2007年8月に生産を終えたトヨタのプログレです。
一方、日産が直6を捨てたのはそれよりもずっと早く、日産最後の直6エンジン搭載車は、2002年8月に生産を終了したスカイラインGT-RのR34型です。
現在のGT-RはV6エンジンとなっていますが、この直6エンジンを積んだスカイラインGT-Rの魅力が忘れられない人も多く、15年以上も前の車であるにもかかわらず、中古車市場ではプレミアがついてかなりの高値で取引されています。
新車登録が2000年以降のものに限れば、500万円~600万円といった、驚くような値段で販売されています。
文・山沢 達也
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