スピード違反の取り締まりには、有人方式と無人方式があります。
有人方式というのは、いわゆる「ネズミ捕り」と呼ばれる待ち伏せ形式の取り締まりや、パトカー(覆面)や白バイによって追尾する方法になります。
それに対して無人式の速度取り締まりというのは、固定した装置を使って自動で取り締まりをする形式のもので、俗に「オービス」などと呼ばれているものです。
実は、このオービスというのは、すべてのものがまったく同じ仕組みというわけではなく、レーダー式・ループコイル式・LHシステム・Hシステムの4つの種類があります。
最近では、この4種類に加えてレーザー式オービスも登場してきています。
レーザー式のオービスは、これまでのレーダー探知機に反応せず、設置場所も自由に変えられる移動式となっているために、飛ばし屋たちにとっては恐ろしい存在となっているようです。
ここでは、従来のレーダー式・ループコイル式・LHシステム・Hシステムの4種類のオービスの仕組みに加えて、最新のレーザー式ついても解説をしてみたいと思います。
古くからあるレーダー式のオービス
レーダー式のオービスは、古くから存在しているタイプのオービスになります。
向かって来るクルマに対してレーダー波を出して、そのレーダー波がクルマに反射して返って来るタイミングを測定することで、どれくらいのスピードが出ているかを判断する仕組みになっています。
野球の球速を測定するスピードガンと原理的には同じものです。
また、有人式のスピード取締り(いわゆるネズミ捕り)も、かつてはこのレーダー式が主流でした。
レーダー式の原理はドップラー効果
レーダー式オービスの原理は、いわゆるドップラー効果を利用したものになります。
ドップラー効果というのは、こちらに向かってくる波は周波数が高くなり、遠ざかっていく浪は周波数が低くなるという性質のことです。
救急車のサイレンの音が近づいて来るときにくらべて、遠ざかるときに音程が下がって聞こえるのは、まさにこのドップラー効果によるものです。
参考:ドップラー効果とは
レーダー式オービスからの発射波が、こちらに向かてくるクルマに反射して返ってくるときにはドップラー効果により周波数が高くなるため、その行きと帰りの周波数の差を利用してクルマの速度を測定しているのです。
使われなくなりつつあるレーダー式のオービス
スピード違反で捕まらないために、カー用品店などで購入したレーダー探知機を取り付けているクルマをときどき見かけますが、もともとはこのレーダー波を探知するための装置だったわけです。
レーダー式のオービスは、連続してレーダー波を発するために、レーダー探知機に捕捉されやすいという点や、写真を撮影する装置がフィルム式で時代にそぐわなくなっている点などから、徐々に他のタイプのオービスに置き換えが進んでいます。
レーダー式オービスの外観的な特徴は、レーダー波を出す装置が道路の上方に設置され、撮影をする装置は少し進んだ先の中央分離帯や路肩などに設置されている点にあります。
高速道路を走行していると、路肩や中央分離帯に設置された怪しげな白い箱を目にすることがときどきあると思いますが、まさにそれがレーダー式オービスの撮影装置です。
ただし、その怪しげな箱がすべて作動しているとは限らず、すでに使われなくなったレーダー式オービスを、そのままダミーとしてその場所に残していることもあるようです。
道路にセンサーを埋め込んだタイプのループコイル式オービス
ループコイル式もわりと古いタイプのオービスで、道路に埋め込んだセンサーにより速度を計測するタイプになります。
実は、日本の自動速度取り締まり装置の元祖はまさにこのループコイル式で、このときに使用された東京航空計器製の装置の商品名が「オービスⅢ」だったことから、すべての自動速度取り締まり装置がオービスと呼ばれるようになったわけです。
3つのループコイルで速度を計測する仕組み
ループコイル式のオービスは、アスファルトのなかに3.45メートルおきに、「スタートループ」「コントロールループ」「ストップループ」と呼ばれる3つのループコイルが埋め込まれています。
その埋め込まれたループコイルの上を金属でできたクルマが通過することによって、インダクタンスが変化をします。
つまり、コイルと金属の接近によって、発電機と同じ原理で起電力が発生し、それがシグナルとなるわけです。
そして、そのシグナルによってそれぞれのループ間の距離と通過した時間から速度を測定する仕組になっているのです。
上方には何も装置が設置されていないループコイル式
ループコイル式のオービスは、センサーとしてのループコイルが道路に埋め込まれているために、道路の上方には何も設置されておらず、中央分離帯や路側帯などに撮影装置が設置されているのみになります。
そのため、直前までオービスが設置されていることに気がつかないことも多く、中央分離帯や路側帯にある怪しげな箱を発見してあわててスピードを落としても、「時すでに遅し」となってしまう可能性があるわけです。
ループコイル式のオービスは、測定のためにレーダー波を使用しておりませんので、レーダー探知機で捕捉することはできません。
また、計測精度に関しても、ループコイル上をクルマが通過する時間を測定して算出していますので、クルマが続けて通過しても測定が可能ですし、レーダー式や次に紹介するHシステムよりも精度的に優れているといわれています。
ループコイル式に対応したGPS機能付きのレーダー探知機
ループコイル式オービスの場合は、レーダー波を使用しておりませんので、従来のレーダー探知機に反応しません。
しかし、最新のGPS機能付きのタイプであれば、設置場所を事前にシグナルで知らせることが可能になります。
ただし、何らかのシグナルを受け取って警告をするというものではなく、あらかじめソフトに登録されたオービスの設置場所に近づくとGPSの位置情報によって知らせてくれる仕組みとなっています。
そのため、登録されたデータが最新のものになっていなければ、設置場所に近づいても何の反応もしません。
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はんぺん型のアンテナが特徴のHシステム
Hシステムのオービスは、現在もっとも多く設置されているタイプになります。
基本的な原理はレーダー式と同じく、レーダー波によるドップラー効果で速度を測定する仕組みになっています。
レーダー式の場合はずっとレーダー波を出しっぱなしのため、レーダー探知機に捕捉されやすいという欠点がありました。
しかし、Hシステムの場合は電波を断続的にパルス状に出すため、レーダー探知機に捕捉されにくいという特徴があります。
有人式のネズミ捕りなども、最近はこの方式の測定器を使用するようになっています。
しかし、最新のレーダー探知機であれば、Hシステムのパルス波であっても感知が可能なものが多くなっています。
このHシステムは、古くからのレーダー式と異なり、撮影装置がレーダー部といっしょに道路の上部に設置されています。
レーダー式オービスの場合、フィルム式の撮影装置を使っていたために、フィルム交換がしやすいように路肩や中央分離帯に装置を設置する必要がありました。
しかし、Hシステムの場合は、デジカメで撮影されたデータが通信回線を使って管理センターに伝送されるようになっていますので、あえて路肩や中央分離帯に撮影装置を設置する必要がなくなったわけです。
Hシステムの外観的な特徴としては、正方形の白い「はんぺん」のような形をしたアンテナにあります。
この「はんぺん」のような形をしたアンテナからパルス式のレーダー波を出しているわけですね。
このHシステムを使ったオービスは、装置の手前に警告用の電子掲示板が設置されており、速度超過車両に対して「スピード落とせ」という表示で1度警告をするシステムになっています。
その警告に気がつかない鈍感なドライバーや、あえて警告を無視するような悪質なドライバーを取り締まるようになっています。
ちなみに、導入初期の頃に阪神高速道路に多く設置されたことから、阪神高速の頭文字をとってHシステムと呼ばれるようになったようです。
Hシステムは計測精度に問題あり?
そんなオービスの主役となったHシステムですが、計測精度に問題があることが指摘されており、スピード違反として摘発をされたドライバーが、納得できずに裁判を起こす例があとをたたないようです。
ドップラー効果を利用してスピードを測定している以上、レーダー式やHシステムは構造的に誤測定が起きやすいといえます。
無線などのさまざまな電波に反応してしまったり、雪などの障害物の影響を受けたりして、誤測定を起こしてしまうことがあるとされています。
このことは、レーダー波を使ったネズミ捕りにもまったく同じことがいえます。
関連記事:レーダー式のネズミ捕りは誤測定が当たり前?~濡れ衣で検挙もありえます
もちろん、警察ではHシステムの計測精度に問題があるなどとは公には認めていません。
これまで多くのドライバーをHシステムで摘発してきた手前、それを認めてしまうと収拾がつかなくなってしまうからです。
しかし、全国各地でHシステムのオービスが次々に撤去されている事実をみれば、暗に計測精度が悪いということを認めていると考えていいでしょう。
LHシステムのオービスはループコイル式とHシステムが合体
LHシステムのオービスは、ループコイル式とHシステムを合体させたタイプになります。
ループコイルの頭文字であるLと、HシステムのHからLHシステムと呼ばれています。
アスファルトに埋め込んだループコイルによって速度を測定する仕組みは、ループコイル式と同じですが、撮影装置が異なります。
ループコイル式の場合は、路肩や中央分離帯にフィルム式の撮影装置が設置されていましたが、LHシステムの場合は、Hシステムと同様にデジカメで撮影したデータを、通信回線を使って伝送することが可能になっています。
LHシステムの外観はNシステムにそっくり
このLHシステムは、外観的にNシステムと見分けがつきにくいのが特徴です。
Nシステムというのは、速度取り締まりのための装置ではなく、道路を走るクルマのナンバープレートを撮影して、主に犯罪捜査のために使われる装置になります。
関連記事:Nシステムというナンバープレート監視装置であなたの行動が監視されています
このNシステムとLHシステムのオービスが、見た感じでは本当によく似ているのです。
よほどオービスに詳しいマニア的な人でもない限りは、瞬間的にNシステムとLHシステムのオービスを見分けるのは困難だと思われます。
「どうせNシステムだろう」などと、たかをくくって速度オーバーで通過したりすると、強烈な赤いフラッシュが光って心臓が止まるほどビックリすることになるかも知れません。
NシステムとLHシステムのオービスを見分ける方法
LHシステム以外のオービスであれば、Nシステムとは明らかに外観がことなりますから、すぐに見分けがつきます。
ループコイル式のオービスの場合には、道路の上部には何も設置されておらず、路肩や中央分離帯に撮影装置が設置されているだけです。
レーダー式の場合には、レーダー波をだすための装置が道路の上部に設置されていますが、撮影装置は路肩や中央分離帯に設置されているため、Nシステムと見間違うことはまずありません。
Hシステムの場合には、はんぺん型のアンテナがかなり目立ちますので、これもNシステムと容易に区別がつきます。
それに対して、LHシステムの場合には、外観的にNシステムと見分けるのは簡単ではありません。
見分けるポイントとしては、撮影装置を取り付けた架台の端に、赤色灯があるかどうかです。
この架台の端に赤色灯が設置されていれば、LHシステムのオービスということになります。
また、LHシステムによるオービスの場合には、速度違反の取り締まりが目的なので、車線の数以上にカメラが設置されていることはありません。
つまり、2車線の道路であればカメラは2台、3車線の道路であればカメラは3台です。
ところが、Nシステムの場合は、路肩を走行するクルマなども撮影できるようになっているため、車線の数によりもカメラの台数が多くなっているのが一般的です。
カメラを設置した架台の端に赤色灯があり、道路の車線数以下のカメラの台数であれば、LHシステムによるオービスである可能性が高いといえます。
最新式のレーザー式オービスとは?
最近登場したレーザー式のオービスが、飛ばし屋たちを震え上がらせているようです。
レーダーとレーザーは1文字しか違いませんが、その原理はまったくことなります。
レーダーは電波なのに対して、レーザーは光です。
そのため、従来のレーダー探知機にはまったく反応することはありません。
しかも、このレーザー式オービスの恐ろしいところは、移動が簡単にできるという点です。
ループコイル式のオービスも通常のレーダー探知機には反応しませんが、固定式のためにその場所さえ特定できればGPS機能のついたレーダー探知機で対応が可能になります。
しかし、レーザー式オービスの場合は、自由に移動させることができるために場所を特定することができません。
場所を特定することができなければ、GPS機能付きのレーダー探知機でもお手上げです。
まさに神出鬼没なオービスなのです。
ただし、最近ユピテルから発売された「LS300」という最新式のレーダー探知機では、レーザー光をキャッチするためのセンサーが取り付けられ、移動式オービスにもある程度は対応が可能になっているようです。
この辺はまさに、警察とレーダー探知機メーカーのイタチごっこといえそうです。
そもそもオービスというのはかなり悪質なスピード違反を取り締まるためのものですので、少しくらいのスピード違反で反応することはありません。
日頃から安全運転を心がけている優良ドライバーのあなたには、レーダー探知機など無用の長物ですね。
ちなみに、オービスがどれくらいの速度で反応するかについては、以下の記事で詳しく解説をしていますので、気になる人は読んでみてください。
関連記事:オービス(自動速度取締り装置)は何キロオーバーで走ると作動する?
文・山沢 達也
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