1975年~1979年にかけて池沢さとし氏が少年ジャンプに連載した「サーキットの狼」の影響で、爆発的なスーパーカーブームが巻き起こりました。
ポルシェやフェラーリ、ランボルギーニといった、それまで一部のカーマニアしか知らなかった外国製のスポーツカーの名前を、誰もがあたり前のように口にするようになりました。
当時の国産車からかけ離れたスタイルや動力性能などが、クルマ好きの人にとってはまさに羨望の的で、各地でスーパーカーのイベントが頻繁に開催されたりしました。
そんな日本国中の人が憧れた当時のスーパーカーですが、現在の国産車とくらべると、それほど動力性能がすぐれていたわけではないということに気がつきます。
むしろ、現在のファミリーカーに馬力で負けていたりします。
つまり、私たちが普段乗っている国産車は、サーキットの狼が連載されていた当時のスーパーカーなみの馬力があるということになるのです。
みんなが憧れたスーパーカーは、現在のファミリーカーよりも遅かったのでしょうか?
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ロータスヨーロッパよりもフィットの方がハイパワー
サーキットの狼の主人公である風吹裕矢の乗っていたクルマが、ロータスヨーロッパです。
実は作者である池沢さとし氏の乗っていたクルマがロータスヨーロッパで、自分が乗っていたクルマを主人公に運転させていたわけです。
このロータスヨーロッパですが、搭載されていたエンジンは1600ccとコンパクトなもので、最高出力は126psでした。
当時の1600ccのクルマとして、126psというのは非常に高性能であったに違いありませんが、いまのクルマとくらべるとスペック的には大した数字ではありません。
ちなみに、排気量が1500ccのホンダフィットRSの最高出力が132psですから、ロータスヨーロッパよりもフットの方がハイパワーということになります。
ただし、クルマの動力性能というのは、単純に馬力だけでは判断できません。
フィットRSの車重が1070kgなのに対して、ロータスヨーロッパはわずか730kgです。
車重を出力で割ったパワーウェイトレシオを比較してみると、ロータスヨーロッパが5.8kg/psなのに対して、フィットは8.1kg/psとなります。
パワーウェイトレシオの数字が少ない方が加速性能的に優れているといわれていますので、ロータスヨーロッパはパワーではフィットRSに負けていても、速さでは負けていないということになります。
ポルシェカレラ911RS とマークXはどちらが速い?
風吹裕矢の宿命のライバルである早瀬左近の乗っていたクルマが、ポルシェカレラ911RSです。
水平対向6気筒の2700ccのエンジンを搭載して、最高出力は210psでした。
比較の対象として国産のセダンであるトヨタのマークXの2500ccモデルを見てみますと、こちらの最高出力は203psとなっています。
わずかにポルシェカレラ911RSの最高出力の方が上回っていますが、マークXの方が排気量が200cc少ないことを考えると、エンジンのポテンシャル的にはほとんど差はないといえるでしょう。
つまり、国産の「普通のおじさん」が乗るセダンであるマークXと、風吹裕矢のライバルである早瀬左近の乗っていたポルシェカレラ911RSは、エンジンの性能的にはほぼ同じということです。
ただし、単純に馬力だけで動力性能を判断することができないことは、先ほど説明した通りです。
ポルシェカレラ911RSの車重が1075kgであったのに対して、マークXの車重は1520kgもあります。
パワーウェイトレシオで見てみますと、ポルシェカレラ911RSが5.1kg/psなのに対して、マークXの方は7.5kg/psとなります。
この数字を見る限りにおいては、マークXとエンジンパワーではほとんど差がなくても、速さではポルシェカレラ911RSが上回るといえそうです。
現在の国産車は、衝突安全性向上のための補強や、さまざまな装備などによって、かなりのヘビー級になってしまっています。
参考記事:どんどん重くなる現代のクルマ~昔の車は本当に軽かった!
ポルシェ930ターボの最高出力はヴェルファイア3.5Lに負ける?
早瀬左近の妹である早瀬ミキの乗るポルシェ930ターボのスタイリングに、度肝を抜かれたスーパーカーファンも少なくないでしょう。
極太のタイヤを納めるためのオーバーフェンダーや大型のリアウイングなど、その外観だけでとんでもなく速そうに見えます。
3000ccの水平対向6気筒OHCエンジンに、KKK製のターボチャージャーを装着したポルシェ930ターボの最高出力は260psとなっています。
兄である早瀬左近の乗るポルシェカレラ911RSの最高出力が210psですから、930ターボは50psほど高出力ということになります。
とはいえ、当時のスーパーカーマニアにとっては「とんでもなく速い」というイメージのあったポルシェ930ターボの最高出力が260psであるというのは、意外に感じてしまうかも知れません。
なぜなら、いまの国産車にとって260psはまったく驚くような数字ではなく、ミニバンであるヴェルファイアでさえ3.5Lだと301psの最高出力を発揮します。
当時のスーパーカーマニアたちにとっての憧れであったポルシェ930ターボが、最高出力でミニバンに負けてしまうというのはショックかも知れません。
しかし、ポルシェ930ターボとヴェルファイアでは車重がまったく違いますので、ポルシェのほうが圧倒的に速いことは言うまでもありません。
当時のターボチャージャーというのは、いわゆる「どっかんターボ」と呼ばれており、低速トルクが低く、エンジンの回転数が上がるにつれていきなり爆発的な加速するという特徴がありました。
突然「どっか~ん」と暴力的に加速するターボなので、「どっかんターボ」と呼ばれていたわけです。
ポルシェ930ターボにはそんな特徴があったために、体感的はよけいに速く感じたに違いありません。
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当時最速といわれたランボルギーニ・カウンタックと日産GT-Rを比較してみる
サーキットの狼で、ハマの黒ヒョウが乗っていたクルマが、ランボルギーニ・カウンタックLP400です。
カウンタックLP400はライバル車であるフェラーリ512BBと最高速度を競っていたクルマで、当時カウンタックLP400の公称最高速度が300km/hであったのに対して、フェラーリ512BBの公称最高速度は302km/hとなっていました。
このわずか2km/hの差に、フェラーリの意地とプライドを感じます。
しかし、当時のスーパーカーの動力性能は安定しませんでした。
キャブレターのセッティングなどがうまくいっていないと本来の性能を発揮することは難しく、300km/hのスピードを出すというのは困難でした。
実際には、せいぜい260km/h~270km/hくらいしか出なかったようです。
参考記事:スーパーカーブームの立役者カウンタックは本当に300km/hもスピードが出たのか?
それに対して、現在のクルマはコンピューター制御によりインジェクションから安定した燃料供給をすることが可能ですので、ほとんどメンテナンスフリーで最高の性能が出せるようになっています。
ちなみに、現在の国産のスーパーカーである日産GT-Rですが、こちらはコンスタントに300km/hオーバーで走行が可能なようです。
ベストカー誌が行ったテストで、GT-Rは311.17km/hという実測値をたたき出しています。
参考:国産車の最高速度はどれくらい?~ミニバンだと160km/h・GT-Rは315km/h
ちなみに、カウンタックLP400と日産GT-Rの最高出力をくらべてみますと、LP400が375psなのに対して、GT-RのNISMOの最高出力は600psにもなります。
40年以上も前のクルマと最新のスーパーカーであるGT-Rを比較するのは酷ですが、パワーでは圧倒的にGT-Rの方が上回っています。
しかし、パワーウェイトレシオでみると、この両者にはそれほど差がないのです。
GT-Rの車重が1720kgもあるのに対して、カウンタックLP400の車重はわずかに1065kgしかありません。
GT-Rのパワーウェイトレシオが2.87kg/psなのに対してLP400は2.84kg/psと、ほぼ同じなのです。
そう考えると、40年以上も前のスーパーカーであるカウンタックLP400のポテンシャルには驚かされるものがあります。
文:山沢達也
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