いまから40年ほど前、日本にスーパーカーブームが巻き起こりました。
火付け役となったのは、1975年から少年ジャンプに連載された「サーキットの狼」という漫画でした。
サーキットの狼の主人公である風吹裕矢が乗っていたのはロータスヨーロッパというクルマでしたが、スーパーカーファンの人気ナンバーワンは、ランボルギーニ・カウンタックというクルマでした。
未来からやってきたとしか思えないような、カウンタックの斬新なスタイルに、スーパーカーファンは酔いしれたものです。
スーパーカーファンを心酔させたのは、その斬新なスタイルだけではありません。
最高速度が300km/hという市販としては、最速ともいえるそのスピードでした。
当時ライバルであった、フェラーリ・512BBというクルマが、302km/hというあきらかにカウンタックを意識した公称最高速度を発表していました。
まさに当時の少年たちのあこがれだった時速300kmのスーパーカーですが、本当に時速300kmで走ることは可能だったのでしょうか?
カウンタックの性能は驚くほどのものではなかった?
サーキットの狼に登場したランボルギーニ・カウンタックLP400は、排気量が4000ccのV12型エンジンをミッドシップに積んでいました。
ターボチャージャーなどの過給機はついていませんでしたので、最高出力も375馬力と驚くほどの数字ではありません。
ちなみに、国産のスーパーカーというべき日産GT-RのNISMOの最新モデルは、3700ccで600馬力をたたき出しています。
もちろん、40年以上も前のクルマと最新のクルマを比較することそのものがナンセンスです。
しかし、GT-Rの6割少しのパワーしかなかったカウンタックLP400が、本当に300km/hというスピードを出すことができたのという部分は大いに気になるところです。
なぜなら、最高出力が600馬力もあるGT-RのNISMOでさえ、最高速度は315kmなのですから。
パワーウェイトレシオがすごかったカウンタック
確かに、エンジンの出力に関してはカウンタックに対してGT-Rの圧勝です。
しかし、車の動力性能というのは、単純にエンジンの出力だけでは決まりません。
実は、カウンタックLP400というのは、非常に軽い車だったのです。
排気量が4000ccもあり、最高出力が375馬力もあるにもかかわらず、車重はわずか1065kgしかなかったのです。
1065kgと言われてもピンとこない人でも、ちょうどホンダフィットくらいの重さと思ってもらえばいかにカウンタックが軽いクルマであるかがイメージできることでしょう。
つまり、ホンダフィットに375馬力のエンジンを積んでしまったようなものですから、どう考えてもカウンタックが早くないわけはないのです。
ちなみに、600馬力のエンジンを積むGT-Rの重さはというと、1720kgです。
馬力はありますが、けっこうヘビー級であることが分かります。
重さを馬力で割ったものをパワーウェイトレシオといいますが、実はカウンタックもGT-Rもそれほど変わらないのです。
カウンタックLP400のパワーウェイトレシオが2.84kg/psなのに対して、GT-Rは2.87kg/psなのです。
ほぼ同じといっていいでしょう。
パワーウェイトレシオがほぼ同じということは、GT-RのNISMOの最高速度が315km/hであるということを考えれば、カウンタックLP400の最高速度が300km/hであっても、なんの不思議もないということになります。
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気難しく調整が難しかった当時のV12気筒エンジン
パワーウェイトレシオでくらべた場合、ほとんど差のないGT-RとカウンタックLP400ですが、やはり40年以上も前のクルマと現代のクルマを単純に比較することはできません。
現代のクルマは、コンピューター制御された燃料噴射装置によって、エンジンに燃料を供給しています。
ところが、カウンタックLP400が活躍した当時のエンジンは、キャブレターという装置を使って燃料を供給していました。
実はこのキャブレターというのが気難しい装置で、セッティングがうまくいかないと、なかなかエンジンが持つ本来のパフォーマンスを発揮することはできませんでした。
しかも、このカウンタックLP400はV12気筒のエンジンですから、この気難しいキャブレターが12個もついているのです。
よほど優秀なエンジニアが完璧なセッティングをしない限り、375馬力のパワーをフルに発揮するのは難しかったろうと想像できます。
それに対して、GT-Rのエンジンはコンピューター制御によって燃料が噴射されるようになっていますから、基本的にはノーメンテナンスで誰が乗っても同じパフォーマンスを発揮できることになります。
カウンタックLP400の最高速度はせいぜい270km/h?
キャブレターのセッティングがバッチリと決まらないと最高のパフォーマンスを発揮できなかったカウンタックLP400が、実際に300km/hの速度で走るのはまず不可能であったと言っていいと思います。
実際にカウンタックLP400をコースに持ち込んで走らせた人の話だと、せいぜい270km/hまでしか出なかったそうです。
エンジンが本調子じゃない車両だと、240km/hくらいまでしか出なかったこともあるようです。
少年たちの憧れの的だった、時速300km/hで走る夢のスーパーカーであるランボルギーニ・カウンタックは、実際には300km/hのスピードを出すことができなかったというのが真相のようです。
カウンタックLP400のライバルであった、フェラーリ512BBも、公称最高速度はカウンタックよりも2km/h速い302km/hでしたが、実際にコース上を走らせてみると、カウンタックとほとんど変わらない状況だったようです。
ある512BBのオーナーが、メーター読みで280km/hしかでないとフェラーリにクレームを入れたところ、「それだけ出れば十分だろう」と逆に怒られたというエピソードがあります。
実際に日本の自動車雑誌であるモーターマガジンが行った最高速度テストでは、カウンタックLP400が257km/h、フェラーリ512BBが270km/hだったようです。
そういった意味では、当時のメーカーが発表する公称最高速度というのは、かなりサバを読んだアバウトなものであったといえそうです。
現在の世界一速いクルマはヘネシー・ヴェノムGT です
40年以上も前のクルマにとって、300km/hという最高速度は目標であり憧れであったのだと思います。
ちなみに、カウンタックLP400が登場した当時に日本国内で発売されていたハコスカGT-Rのスペックは、最高出力が160馬力で、公称最高速度は200km/hとなっていました。
それを考えると、300km/hというスピードは、当時のクルマにとって想像を絶するスピードだったことでしょう。
フェラーリやランボルギーニといったスーパーカーを作っている自動車メーカーは、クルマファンに夢をあたえる役割があります。
そのため、たとえハッタリであっても、公称最高速度を300km/hという数字にこだわったのだと思います。
ちなみに、現代の世界最速カーは、ヘネシー・ヴェノムGTで、最高時速はなんと435kmを記録しています。
もちろん、メーカーの公称最高速度ではありません。
2014年2月14日に、ケネディ宇宙センターにあるNASAシャトル着陸施設の着陸路にて、実際に最高速度計測が行われています。
ヘネシー・ヴェノムGTは、7000ccのV8エンジンを搭載して、最高出力は1451馬力という、まさにバケモノのようなモンスターマシンです。
驚きなのは最高速度やエンジンの出力だけではありません。
その値段もありえないような高額で、なんと1億4000万円もするそうです。
最高速度も値段も、まさに非現実的なクルマといえそうです。
文・山沢 達也
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