ガソリンスタンドの数が激減するなか、静岡県の浜松市で試験的に行われた移動給油所が注目を集めています。
ガソリンスタンドが激減した理由としては、クルマの燃費がどんどん良くなっていることや、2011年6月にだされた「危険物の規制に関する規則」などが影響していると思われます。
参考記事:激減するガソリンスタンドの影響で給油が困難になってしまう?
近くにガソリンスタンドがなく、給油をするために20km~30kmもの距離を移動しなければならない人にとっては、移動式給油所は非常にありがたい存在に違いありません。
はたして、移動式給油所というのは、ガソリンスタンド不足に悩む過疎地の人たちの救世主となることはできるのでしょうか?
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浜松市で行われた移動式給油所の実証実験
移動式給油所の実証実験を最初に行ったのは静岡県浜松市の天竜区で、この地区では2006年に30カ所あったガソリンスタンドが、2017年には16カ所までに減ってしまっています。
その結果、ガソリンを給油するために遠方までクルマを走らせなければならない、いわゆる給油難民と呼ばれる人たちが大量に発生する事態となりました。
そこで、浜松市では経済産業省の補助金を活用して、2018年11月~2019年1月にかけて、この天竜地区を含めて4回にわたって移動給油所の実証実験を行うことになったわけです。
活用することになった補助金は、「SS(サービスステーション)過疎地対策検討支援事業補助金」と呼ばれているもので、国としてもガソリンスタンドの激減にともなう給油難民の増加に危機感をおぼえているようです。
「どこでもスタンド」を使ってタンクローリーから直接給油
浜松市で実証実験が行われた移動式給油所は、「どこでもスタンド」という名称の計量器をつかって、タンクローリーから直接クルマに給油をするというものです。
「どこでもスタンド」は、兵庫県の横田瀝青興業株式会社が、2011年の東関東大震災での燃料供給支援活動の経験を生かして開発されたものです。
ちなみに、「どこでもスタンド」という名称は、横田瀝青興業株式会社によって商標登録されています。
100V電源のほかに、12Vや24V電源にも対応していますので、近くにコンセントがないような場所でも、タンクローリーのバッテリーから電源を供給することが可能になっています。
また、ID管理によって作業者を管理したり制限したりすることができるようなので、取扱いになれていない人が誤って操作をするという危険性も少なくなっています。
そんなすぐれものの「どこでもスタンド」ですが、欠点もあります。
それは、複数の種類の給油をすることができないということです。
そのため、浜松市が行った移動式給油所ではレギュラーガソリンのみの提供となりました。
ハイオク、レギュラー、軽油のすべてを供給するためには、「どこでもスタンド」が3台必要になることになります。
とはいえ、軽油仕様のクルマにレギュラーガソリンを入れることはできませんが、ハイオク仕様のクルマにレギュラーガソリンを入れることは可能です。
参考記事:ハイオク仕様の車にレギュラーガソリンを入れて走ったらダメなの?
ハイオク仕様のクルマをレギュラーで代用するということであれば、「どこでもスタンド」は2台あればいいことになります。
ちなみに、タンクローリーは、1台のタンクローリーにハイオク、レギュラー、軽油を別々に分けて運ぶことが可能なので、ガソリンの種類別に専用の車両を用意する必要はありません。
消防法によりタンクローリーからの直接給油は原則としてできません
近くにガソリンスタンドがない人にとっては、まさに救世主ともいえる移動式給油所ですが、本格的に稼働をさせるためには、いくつかのハードルを越える必要があります。
そのハードルの1つに、消防法の問題があります。
タンクローリーから直接クルマに給油をすることは、原則として認められていないのです。
しかし、災害発生時に限り10日間だけ臨時的に認められるという制度があり、今回の浜松市の実証実験ではそれを特別に適用する形で行ったものです。
最初は浜松市天竜区で2018年11月19日~11月21日の3日間だけ行い、その後に場所を変えて2019年1月までに計4回を行うことになりました。
移動式給油所を本格的に稼働させるためには、災害時以外にもタンクローリーから直接給油できるように法改正などを視野に入れていく必要があると思われます。
経済産業省としては、将来的に移動式給油所を自治体ではなく民間で運営できるようにしたいと思っているようですが、消防庁は法改正に慎重になっているようです。
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現状だと6人態勢での給油をする必要があるため採算が合わない
近くにガソリンスタンドのない給油難民にとっては、まさに救世主ともいえる移動給油所ですが、仮に本格的に稼働できたとしても現状だと採算が取れない可能性が高いです。
浜松市で行った実証実験では、ドライバーや危険物取扱の有資格者のほか、タンクローリーの運転手、交通誘導員などを含めた6人ものスタッフが給油に立ち会う必要がありました。
セルフのガソリンスタンドのようにドライバーが自分で給油をすることはできませんので、給油そのものは係員がする必要があるのは仕方のないところです。
しかし、給油しているところを見守るだけの監視員まで立ち会わせるというのは、少し過剰な気がしないでもありません。
それだけの人件費をかけて、採算が合うようにするには、ガソリンの価格をかなり高めに設定しなければならなくなるので、実用化という点を考えたらこのままでは厳しいといえます。
今回の浜松市の実証実験では、同地域の他のガソリンスタンドと同水準の価格で販売したようですが、国からの補助金があったからこそ、実現が可能だったわけです。
今回の実証実験では、災害時のみに認められるタンクローリーからクルマへの直接給油を、特別に認めてもらうために、これだけの人数をそろえる必要があったのだと思います。
お役所というのは、これまでと変わったことをするときには、何か不測の事態が起きたときに自分たちに責任が及ばないように、過剰な対策を要求してきます。
しかし、ここの部分を根本的に改善して少人数化を実現しないことには、本格的な移動式給油所の運営を実現するのは難しいといえるでしょう。
文:山沢達也
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