最近、道路を走っているとつぶれたガソリンスタンドを目にすることが多いと思います。
ガソリンスタンドの数がもともと多い地域であれば、仮にいつも利用している店が閉店したとしても、近くにある別のガソリンスタンドに行けば問題はありません。
しかし、もともとガソリンスタンドの少ない地域では、その地域に1か所だけしかなかった店が廃業をしたりすると、住民の生活に支障がでてきてしまうことになります。
いったい、なぜガソリンスタンドはこうも次々と廃業をしてしまうのでしょうか?
おらが村にはガソリンスタンドがないという深刻な話
日本のクルマのほとんどは、ガソリンを燃料として走っています。
ガソリンがなくなれば、近くのガソリンスタンドまで行って給油をしなければならないのは当然のことです。
しかし、その当然のことができなくなっている地域が、最近は急激に増えているのです。
2014年末の時点で、ガソリンスタンドの数が3か所以下の市町村が283ヵ所もあるのです。
1か所しかない市町村が71、さらに1軒もない市町村も11ヵ所あります。
つまり「おらが村にはガソリンスタンドが1軒もない」という自治体が11ヵ所もあるのです。
そういった地域では、車以外の交通手段がないところがほとんどですので、車なしでは生活がなりたちません。
ガソリンを給油するところがないというのは、まさに死活問題といえるのです。
ちなみに、一番近くのガソリンスタンドまでの距離が15km以上離れている市町村が257ヵ所あります。
そういった地域では「ガソリンの警告ランプがついたから、ちょっくら給油してくるかな」などとのんきなことを言ってはいられないのです。
給油に向かう途中にガス欠になってしまうなどという、まさにシャレにならないようなことも起こり得るのです。
なぜガソリンスタンドがどんどん減ってしまうのか?
ガソリンスタンドの数は、ピーク時の1994年には全国で60,042店舗ありました。
それが、2015年には32,333店舗と、半数近くまで減ってしまっています。
ここまでガソリンスタンドの数が減ってしまった背景には、いくつかの理由があります。
スポンサーリンク
・1996年にガソリンの輸入が解禁された
もともと日本には1986年に制定された「特定石油製品輸入暫定措置法」というものがあり、国内の石油業者はその法律によって保護されていました。
しかし、1996年の規制緩和によりこの「特定石油製品輸入暫定措置法」が廃止され、石油輸入業者に対する制約がなくなりました。
このことにより、誰でもガソリンを輸入して販売できるようになりました。
規制が緩和をされることで、消費者にとっては価格面でのメリットがありますが、事業者にとっては競争激化によって、経営が厳しくなってくるところも出てきてしまうわけです。
その結果として、廃業を余儀なくされてしまうガソリンスタンドも出てきてしまいました。
・セルフのガソリンスタンドによる競争激化
かつての日本におけるガソリンスタンドでは、車に乗ったままで店員さんに給油をしてもらうというスタイルが一般的でした。
しかし、いつの間にか自分で給油をする代わりに、価格の安いセルフ式のガソリンスタンドが主流になりつつあります。
価格的には、一般のガソリンスタンドにくらべてセルフ式の方が1リットルあたり5円ほど安くなりますので、満タンにすると150円~250円ほどの差になります。
セルフ式の場合は、人件費を減らすことができるので、その分を価格にダイレクトに反映できるわけです。
ガソリンの給油自体は難しい作業でもなんでもなく、誰でもできる作業ですから、たかが1リットルあたり5円とはいえ、消費者は安い店の方にどんどん流れていってしまうことになります。
その結果として、昔ながらのセルフ式ではないガソリンスタンドは、どんどん廃業に追い込まれてしまうことになります。
・地下タンクの改修費用を捻出できないため廃業
2011年6月に「危険物の規制に関する規則」が改正されました。
この改正により2013年の1月31日までに、設置年数が古く腐食の恐れの高い地下タンクに関しては腐食防止措置をしなければならなくなりました。
しかし、地下に埋まっているタンクを補修するというのは容易ではなく、セルフ式ガソリンスタンドの台頭によりギリギリの経営を余儀なくされていた古くからのガソリンスタンド経営者が、工事費用を捻出するというのは困難なことでした。
その結果、2013年の1月31日までに地下タンクの腐食防止措置に対応できないガソリンスタンドは、次々に廃業せざるを得なくなってしまったわけです。
・年々進む車の低燃費化
最近のクルマは、非常に燃費が良くなっています。
わたしたち消費者にとっては、車の燃費がいいということはとても歓迎すべきことといえます。
しかし、ガソリンを販売することで生計を立てているガソリンスタンドにとって、低燃費車が増えて行くことは死活問題になります。
今後の車の所有台数が変わらないと仮定した場合、低燃費の車が増えるということは、すなわちガソリンの消費量がどんどん減っていくことが予想されるからです。
実際に国内のガソリン消費量は、平成16年度と平成23年度をくらべた場合、約7%も減っています。
わずか7年間という短い期間で、ガソリンの需要が7%も落ちているわけです。
今後、ハイブリッドカーなどのエコな車がどんどん普及していくことで、ガソリンの消費量は大きく減っていくに違いありません。
車の燃費が良くなることは大歓迎ですが、その結果としてガソリンスタンドがどんどん廃業に追い込まれ、給油をする場所がなくなっていってしまうというのは、なんとも皮肉なことといえます。
コンビニの店員が給油をする時代が来る?
ガソリンスタンドがなくなってしまうのは本当に困るのですが、ガソリンスタンドは公共事業ではなくあくまでも民間によって経営されていますから、利益を出すことができなければ廃業もやむなしとなるわけです。
しかし、そのことによって生活に支障が出る人たちが増えて行ってしまうのは事実ですし、そのことを懸念した国は、ある実証実験を開始しました。
ガソリンスタンドの数が減っていくのとは反対に、店舗数を年々伸ばしているのがコンビニです。
そこに目を付けた総務省は、コンビニの隣に無人のガソリンスタンドを併設し、給油のお客がきたときだけコンビニの店員が対応するという「駆けつけ型ガソリンスタンド」の実証実験を始めたのです。
過疎地域でのガソリンスタンド経営が厳しいのは、めったにお客が来ない店であっても、「危険物取扱者」の資格を持つ従業員をつねに常駐させておかなければならなかったため、人件費が捻出できなかったわけです。
そこで、コンビニで働くスタッフに、めったにお客の来ないガソリンスタンドの仕事を兼務させて人件費を浮かそうというわけです。
ホームセンターなどで、灯油が売られているのを目にすることが多いと思いますが、まさにそれと似たようなシステムといえます。
ふだんはコンビニの店員として仕事をしていて、給油をする人が訪問したときだけインターホンなどで呼びだしてもらうわけです。
はたして、この実証実験は総務省の目論見通りにうまくいくのでしょうか。
文・山沢 達也
スポンサーリンク