ハイブリッド車などの普及に伴い、低燃費のクルマが増えてきたことにより、ガソリンスタンドの数が急速に減っています。
1994年には6万カ所あったガソリンスタンドがいまや3万カ所ほどとなり、半減してしまっています。
その結果、過疎地を中心にガソリンや灯油などが入手困難になっている給油難民が激増しているのです。
参考記事:激減するガソリンスタンドの影響で給油が困難になってしまう?
地方では、都市部のように公共の交通機関が発達していないために、クルマというのはある意味では生活必需品といえます。
クルマがないとどこにも行けないため、そういった地域では生活保護の受給者ですらクルマの所有を認められています。
しかし、皮肉なことに、そういった生活にクルマが絶対必要な地域で、ガソリンスタンドが次々と姿を消してしまっているのです。
低燃費のクルマが増えてきたことに加えて、特に過疎地の場合には人口の減少に歯止めがかからないことなどから、ガソリンスタンドの経営が成り立たなくなっているのです。
国や地方自治体も、そうした給油難民対策を打ち出しているようですが、公的支援には限界もあるようです。
冬場に灯油が手に入らなくなってしまう
ガソリンスタンドがなくなると困るのは、クルマに乗る人だけではありません。
生活をする上で必要不可欠な灯油が手に入らなくなってしまうのです。
灯油が手に入らなくなってしまうと、ストーブが使えなくなるだけではありません。
地方では、お風呂を沸かすボイラーも灯油を燃料としているケースが多いため、お風呂にも入れなくなってしまう可能性があるのです。
そういった地域では、クルマに乗ることができない高齢者の家などを、ガソリンスタンドの小型ローリーが巡回をして、各戸に灯油を給油しているところも少なくありません。
もし、そのような形で地域に貢献をしているガソリンスタンドが経営を続けることができなくなってしまった場合、誰がそういった方々の生活を支えるのでしょうか?
灯油が手に入らなくなった時点で、その地域の人たちの生活は成り立たなくなってしまうに違いありません。
公的支援によりガソリンスタンドを残そうという試みも
一部の自治体では、給油難民を救うために、なんとかガソリンスタンドを残そうと、さまざまな取り組みをしたりしているようです。
実際の事例をいくつか紹介してみたいと思います。
・県や市の補助金で各戸に90リットルの灯油タンクを設置
大分県杵築市太田地区では、平成25年にその地域に1か所だけになってしまったガソリンスタンドを何とか残そうと、県や市の補助金でガソリンスタンド運営業者の負担を減らすための対策を行っています。
灯油の配達が必要な110戸の家に、90リットルの灯油タンクを設置して、業者が巡回する手間を減らそうという試みをしているのです。
これまでは、注文が入るたびにガソリンスタンドが灯油を配送していたのですが、各戸に大型のタンクを設置することで、業者の配送の負担を大幅に減らすことが可能になるわけです。
タンク設置費用の負担割合は、大分県の「買い物弱者支援事業」が75%、杵築市が12.5%、ガソリンスタンド事業者が12.5%となっています。
・閉鎖したガソリンスタンドを町が買取って町営で営業再開
和歌山県すさみ町では、町内のガソリンスタンドがすべて閉鎖をしてしまい、もっとも近いガソリンスタンドまでの距離が13kmと、住民にとって不便な状態が続いていました。
そこで、平成27年に「道の駅すさみ」に隣接する閉鎖中のガソリンスタンドを町が買取り、町営のガソリンスタンドとして再建をすることになりました。
営業開始にあたって、資源エネルギー庁の補助金約2000万円を活用し、町で老朽化した地下タンクを入れ替えたりして整備を実施しています。
・廃業したガソリンスタンドを村が無償で譲り受けて運営再開
奈良県川上村では、村で唯一のガソリンスタンドが、経営難に加えて後継者がいないという理由で平成28年7月に廃業となりました。
村にガソリンスタンドがなくなってしまうことに危機感をおぼえた川上村では、ガソリンスタンドを存続させるための対策に打って出ます。
全石連の協力のもとに協議した結果、川上村が出資する一般社団法人である「かわかみらいふ」が運営を引き継ぐことになりました。
ガソリンスタンドの施設そのものは、これまで運営をしてきたガソリンスタンド経営者が無償で村に提供をし、運営や経営に関してもサポートをしていく形となりました。
平成29年4月3日に、公営のガソリンスタンドとして、営業を再開しています。
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・地下タンクの改修費用を補助する自治体も
ガソリンスタンドの数が大きく減った原因は、低燃費車が増えたことや人口減だけではありません。
国は2011年から、既存のガソリンスタンドに設置してある老朽化した地下タンクの漏えい防止対策を義務化しました。
地下タンクの漏えい防止対策には、国の補助があるとはいっても自己負担分として数百万円の出費が避けられません。
経営状態が厳しくなっていたガソリンスタンドが、タンクの漏えい防止対策のために数百万円を支出するというのは困難です。
つまり、青白吐息だったガソリンスタンドに、国が追い打ちをかけてしまう形になってしまったわけです。
群馬県のみなかみ町では、雪深い地区のガソリンスタンドを存続させるための特別措置として、地下タンクの改修費用として880万円の補助をしています。
ガソリンスタンドがなくなってしまうと、住民の生活に支障がでてしまうために、やむを得ない措置だったのでしょう。
町内には他にもガソリンスタンドが10ヶ所ほどあるようですが、すべてのガソリンスタンドに同じような補助をするというのは財政的には困難なようです。
ミニスタンド化に活路を見出す経済産業省
ガソリンスタンドがどんどん姿を消してしまっている過疎地対策として、経済産業省ではミニスタンドに活路を見出そうとしています。
ミニスタンドというのは、お店や役所などに併設する簡易施設で、600リットル以下のタンクと給油装置を地上に設置するというものです。
そして、お客さんが給油をしにきたときだけ、お店の店員や役所の職員が給油の対応をするわけです。
一般のガソリンスタンドのように、専属の店員が常駐する必要がないので、人件費を抑えることが可能になります。
設置費用も、従来の1万リットル規模の地下タンクを設置するガソリンスタンドにくらべて、3分の1程度で済むようです。
タンクが地上に設置されているため、腐食の状態を目視で確認できるために、地下タンクのような老朽化に伴う漏えい防止対策も義務化されていません。
ミニスタンドの設置をすすめる鹿児島県の離島
ガソリンスタンドがまったくない鹿児島県の離島である十島村では、売店組合によってミニスタンドの設置をすすめています。
しかし、タンクローリーから直接タンクに充填することができないため、ドラム缶から人力でタンクに充填することになるため、どうしても手間やコストがかかってしまうようです。
十島村のような離島であれば、他にライバルのスタンドがないので問題ありませんが、これが陸続きで既存のガソリンスタンドがあるような地域では、ミニスタンドは価格競争で太刀打ちができない可能性があります。
ミニスタンドは、一般のガソリンスタンドがなくなってしまった地域でのみ、経営が成り立つといえそうです。
文・山沢 達也
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