若者があまりクルマに関心がなくなってきたことや少子化の影響により、自動車教習所の経営がかなり厳しい状況になっているようです。
年間の卒業生の数は1988年のピークのときには264万人でしたが、2016年には156万人ほどにまで落ちてしまっているようです。
その結果、ここ20年間の間に廃業を余儀なくされた教習所の数は、全国で150校にものぼります。
なんとか生き残っている自動車教習所も、1校のあたりの年間卒業生の数がピークのときの1,735人から1,172人にまで減ってしまっているのが現状です。
第2次ベビーブームのときに200万人を超えていた出生数が、100万人程度にまで落ちてしまっている現状を考えると、これから教習所の経営はますます厳しくなっていくものと思われます。
女性の教官を増やしたり、教習車にベンツやBMWを採用したりといった企業努力をする教習所もあるようですが、抜本的な解決策にはなっていないようです。
参考記事:自動車教習所がどんどん潰れる!~免許を取らない若者たち
そんななか、一部の教習所で生き残り作戦の一環として、ドローンの教習を始める教習所が登場しました。
ドローンというのは無人航空機の総称で、小型のヘリコプターのようなものにカメラを取り付けて、ラジコン操縦で上空からの撮影を可能にするものです。
自動車教習所で、どのようにドローンの教習を行っているのでしょうか?
スポンサーリンク
クルマの教官がドローンの操縦も指導します
自動車教習所でドローンの教習をするといっても、いったい誰が教えるのだろうかと疑問に思う人もいると思いますが、クルマの運転を指導する教官がドローンの操縦も教えることになります。
経営状態が厳しい自動車教習所に、新たにドローンのインストラクターを雇用するだけの余裕はないことでしょう。
そのため、これまで長年クルマの運転を指導してきた教官たちが、ドローンスクールに派遣されて技術や知識を習得したうえで、自分の学校で指導にあたることになるわけです。
自動車教習所の教官は、もともと教えることに関してはプロですから、ドローンの操縦を学びにきた生徒さんの間では、わかりやすいと評判になっているようです。
職業柄、ドローンの操縦をクルマの運転にたとえて教えてくれる教官もいるようです。
4日間ですべてをマスターするカリキュラムになっています
自動車教習所にドローンの操縦を習いに行った場合、どのようなカリキュラムで指導してくれるのでしょうか?
クルマの教習も学科と実地に分かれていますが、ドローンの教習も座学と実技に分けて指導が行われます。
座学では、航空法や電波法、道路交通法といった法律や、ドローンの飛行原理や構造などを学びます。
また、ドローンを安全に運行するための安全管理に関する教習も行われます。
そして、最後に教えられたことがしっかりマスターできているかどうかを確認するための、筆記試験が行われます。
実技試験は、日常点検の方法や整備の方法などから入り、その後手動操縦によるホバリングなどの簡単な操縦のやり方に進みます。
その後、徐々に難易度の高い操縦をマスターしていき、最後は自動航行までをマスターするカリキュラムになっています。
そして、最後には実技試験が行われることになります。
すべてのカリキュラムが終了するまでの日数は基本的に4日間となっていますが、試験の成績が良くなかった人のみ、補習としてさらに1日受講するようになっているようです。
クルマの場合には、1時間単位で予約をして教習を受けることが多いですが、ドローンの場合は朝から晩までみっちり4日間で習得するカリキュラムになっているため、仕事の合間に通うというようなことはできません。
ドローンの操縦を学ぶために、まるまる4日間空ける必要があるわけです。
クルマの教習費用とほぼ変わらないドローンスクールの受講料
このドローン操縦の教習ですが、どれくらいの費用が掛かるのでしょうか?
岩手県の江刺自動車学校にある「岩手ドローンスクール」の場合、入学金が3万円(税別)で、受講料が24万円(税別)となっています。
思ったよりも高額な受講料にびっくりする人もいるでしょう。
クルマの教習費用とほとんど変わりません。
クルマの教習の場合、集中的に学ぶことができる合宿であっても2週間以上かかるのが一般的ですので、4日間で卒業となるドローンスクールが27万円というのは、かなり割高な印象を受けます。
確かに、クルマの教習の場合1日に受講できる技能講習の時限数が法律で決められていますから、どうしても日数がかかってしまうことになります。
第1段階は1日あたり2時限までですし、第2段階は3時限までと決められています。
そういった事情はあるにせよ、4日間で27万円の費用がかかるドローンスクールというのは、高いイメージを持ってしまいます。
しかし、そんな高額な費用がかかるにもかかわらず、岩手ドローンスクールでは、毎回のように募集定員10人がいっぱいになってしまうようです。
卒業をすると取得できるドローンの資格とは?
ドローンを操縦するための国家資格というものは存在しません。
しかし、いくつかの団体や企業が独自に民間資格を設けています。
重さが200g以上あるドローンを空港周辺や住宅密集地で飛行させる場合には、航空法に基づいて国の許可が必要になります。
国土交通省が設ける要件を満たした47団体の資格を所有していると、航空法に基づく国の許可をもらうときの手続きが簡略化されるというメリットがあります。
先ほど紹介した岩手ドローンスクールの場合、JUIDAという団体によって操縦技能証明書と安全運航管理証明書が授与されるようになっています。
スクールの講義のあとに行われる筆記試験や実技試験に合格した人が、JUIDAに申請をすることでライセンスがもらえるようです。
JUIDAは正式名称を一般社団法人日本UAS産業振興協議会といい、「無人航空機システムの民生分野における積極的な利活用を中立な立場で推進する団体」とのことです。
2017年4月現在で、このJUIDAからライセンスを授与された人は、1,400人ほどになっているようです。
スポンサーリンク
どのような人が自動教習所にドローンを習いにくるのか?
ドローンの民間資格が取得でき、その結果として国の許可をもらうための手続きが簡素化できるとしても、一般の人にとって27万円の受講料はかなりハードルが高いと感じるはずです。
ドローンの操縦そのものは、子どもなどがドローンで遊んでいるのを見ても分かるように、自己流でもマスターしようと思えばできるはずです。
多くの人が趣味で行っているラジコンの飛行機やラジコンヘリも、基本的には独学で技術をマスターしているはずです。
もちろん、ホビーショップが行っているラジコンヘリスクールなどもありますが、1万円程度の費用で参加できるものがほとんどです。
それなのに、同じラジコンで操縦する飛行体であるにもかかわらず、ドローンだけはなぜ高いお金を払ってでも習いたいという人がいるのでしょうか?
実は、ドローンスクールに来る生徒は、仕事でドローンを使う必要性のある人たちが多いのです。
地質調査会社や電力会社などの、仕事として航空撮影をする必要性のある会社の人たちです。
自社の社員にドローンの技術を習得させことで、外部の航空撮影会社に業務を委託する必要がなくなり、なおかつ資格を得ることで国の手続きを簡素化できるというメリットもあるわけです。
そういった企業にとっては、27万円というお金をかけても社員にドローンの技術をマスターさせるだけの価値は十分にあると考えているのでしょう。
文・山沢 達也
スポンサーリンク