燃費の良くなる走り方として「急発進をさけてゆっくりとアクセルを踏んでスタートをしましょう」などとよく言われますね。
実際にネット上でも、そういったことを書いているサイトやブログが多いようです。
でも、これは本当なのでしょうか?
何か間違ったソース元があって、それをみんな信じているだけではないのでしょうか?
ガソリンエンジンの特性を考えた場合、アクセルをゆっくりと開けてノロノロと加速すると、むしろ燃費が悪くなる可能性が高いのです。
加速時の燃料消費量はアクセル開度だけでは決まらない
アクセルを多めに踏み込めば、たくさんの燃料がエンジンに流れ込むことになるから燃費が悪くなる、などともっともらしく解説されているサイトやブログをよく見かけますが、実はそう単純な理屈ではスタート時の燃費を語ることはできないのです。
アクセルを多めに踏み込むといっても、ずっと踏み続けるわけではありません。
アクセルをずっと多めに踏み込んだままだと、ただの暴走車になってしまいます。
アクセルを多めに踏み込むのは、あくまでもある一定の速度になるまでです。
つまり、制限速度が60km/hの一般道であれば60km/hまで、制限速度が100km/hの高速道路であれば、100km/hまでです。
その速度に達すると、アクセルを緩めてその速度をしばらく維持することになります。
クルマがほぼ一定の速度で走っているときには、燃料はあまり消費しません。
燃料をたくさん消費するのは、あくまでも発進から一定の速度になるまでの間です。
アクセルを少なめに踏み込んで加速をすれば、確かにエンジンに流れ込む燃料は少なくなりますが、その代わり一定速度になるまでの時間がかかることになります。
逆に、アクセルを多めに開けた場合には、たくさんの燃料がエンジンに流れ込むことになりますが、一定速度に達するまでの時間は短くて済みます。
アクセルの開度に応じてエンジンに流れ込むガソリンの量と、一定速度に達するまでにかかる時間をかけ合わせることで、実際に消費されるガソリンの量が決まることになります。
そういったことを冷静に考えてみた場合、発進時はアクセルをあまり開けないでゆっくりと加速をした方が、低燃費になると単純に主張するのは、あまりにも乱暴ではないかと思います。
参考記事:クルマの燃費を向上させるために知っておくべき豆知識
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ガソリンエンジンというのは低回転時の効率が悪い
モーターの場合ですと、低回転から最大トルクを発揮しますので、どの回転域であっても効率的にはほとんど差がありません。
しかし、ガソリンエンジンというのは、ある程度まで回転数を上げないと強いトルクが発生しない仕組みになっています。
強いトルクが発生している状態の方が、クルマを前に推し進める力が強くなるわけですから、トルクがあまり出ていない低回転時は、消費した燃料の割にはなかなかクルマの速度が上がっていかないということになるわけです。
つまり、ノロノロと加速をすることは、エンジンの一番効率の悪い部分を使っているということになり、むしろ燃費が悪くなる可能性があるのです。
最近では、いわゆるトルクコンバーター式のATではなく、CVTを採用するクルマが多くなりました。
このCVTを採用することで、クルマの燃費が劇的に改善されつつあるのはまぎれもない事実です。
これまで、普通のAT車しか乗ったことがない人が、CVTを搭載しているクルマに乗ると違和感をおぼえると思います。
一般のAT車の場合には、アクセルの踏み込み量に応じてエンジンの回転が上昇するのに対して、CVTの場合には踏んだアクセルの量以上にエンジンの回転が上昇することが多くなるからです。
つまり、それほど急加速をしているわけではないのに、思った以上にエンジンの回転が上がってしまったりするわけです。
これは、コンピューター制御されたCVTが、エンジンの一番効率のいい部分を引き出そうとするために起こる現象です。
「エンジンの回転が上がっているから燃費が悪くなる」ということであれば、CVTのクルマは燃費が悪くなるはずです。
しかし、現実的にはCVTを採用している車は、一般のAT車にくらべて燃費がいいのです。
このことから考えても、単純にアクセルをあまり開けないで(エンジンの回転をあげないで)、ゆっくりとクルマを発進させた方が低燃費につながるとはいえないことになります。
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ポンピングロスによるエンジン効率の低下
ガソリンエンジンが低回転時に効率が悪くなるというのは、トルクの発生回転数の問題だけではありません。
ちょっと専門的な話になりますが、実は低回転時にはポンピングロスによってもエンジンの効率が悪くなるのです。
ガソリンエンジンは、ピストンが下にさがるときに空気を吸い込みます。
このとき、アクセルの開度が少ない状態だと、シリンダー内に入ってくる空気の量が少ないためにピストンが下にさがりにくくなり、それが抵抗となってしまうのです。
たとえば鼻をつまんで口から息を吸い込むときに、口をすぼめた状態と大きく口を開けた状態では、どちらが楽に空気を吸い込むことができるでしょうか?
アクセルを少ししか開けていない状態というのは、まさに口をすぼめて息を吸い込むのと同じ状態なわけです。
アクセルを完全に閉じた状態だとエンジンブレーキが働くことはドライバーなら誰もが知っていると思いますが、このエンジンブレーキが効いている状態というのは、ポンピングロスが最大限に発生している状態ということがいえるわけです。
アクセルをたくさん開けて、シリンダー内にたくさんの空気を取り入れることができれば、このポンピングロスは少なくなり、エンジンは効率よく回ることになります。
つまり、アクセルをちょっとしか空けないでノロノロと加速をしている状態というのは、極端な言い方をすれば、軽くエンジンブレーキをかけたまま加速をしているということになるわけです。
このように、アクセルの開度が少ないとポンピングロスが発生するというガソリンエンジンの特性を考えた場合、エンジンをあまり回さないでゆっくりと発進したほうが低燃費につながるというのは、理論的には考えにくいことなのです。
低燃費走行のエキスパートたちの走り方
低燃費を競い合う、エコランと呼ばれるレースがあります。
これまでの大会記録は、2011年の第31回に記録された3,644.869km/Lです。
つまり、ガソリン1リットルで3,600kmもの距離を走ってしまうわけです。
参考記事:1リットルの燃料で3,644km走る!?~燃費世界一に挑むエコラン
このエコランに出場しているドライバーは、まさに低燃費走行のエキスパートといえます。
実際に彼らがどのような走り方をしているのかといいますと「一気に加速をする→エンジンを止めて惰性で走る→一気に加速をする→エンジンを止めて惰性で走る」といったことを繰り返しているのです。
エコランの平均速度は25km/h程度ですが、彼らはマシンを一気に40km/h程度まで加速させます。
そして、そこでエンジンをストップさせてクラッチを切った状態で惰性で走らせます。
そして、速度が20km/h程度まで落ちたてきたら、再びエンジンを始動して、40km/h程度まで一気に加速をさせます。
ここで重要なポイントは、40km/h程度まで加速をさせるときに、決してアクセルを絞ってノロノロと加速をさせることはないということです。
最大トルクが発生し、なおかつポンピングロスが小さくなる回転数までエンジンを回し、一気に40km/h程度まで加速をするわけです。
こうした低燃費走行のエキスパートたちの走り方をみても、どのような走り方をすれば燃費が良くなるかということのヒントがつかめるかと思います。
実際に実験してみた人がいるようです
実際に、ある方が急発進・急加速を意識して走った場合と、ゆっくり発進・ゆっくり加速を意識して走った場合で、どれくらい燃費に差がでるのか実験をしてみた結果が残っています。
実験に使ったクルマはダイハツのミラ(MT車)で、どちらの走り方をするときもほぼ同じような道を同じような距離走りました。
そして1回だけの実験だと、データに偶然性や誤差の問題などが出てきてしまうので、同じ実験を3回繰り返したそうです。
その結果、急発進・急加速を意識して走った場合の燃費は23km/L、ゆっくり発進・ゆっくり加速を意識して走った場合の燃費は18km/Lだったそうです。
しかも、3回ともほぼ同じような結果になったといいます。
この実験の車両はMT車でしたので、ここまではっきりと結果がでたのかも知れません。
これが最新のCVT車などであれば、ここまで露骨な差にはならない可能性はあります。
いずれにしましても、発進時にあまりアクセルをあけずにノロノロとスタートすると、かえって燃費が悪くなる可能性が高いということが、この実験からも判断できると思います。
ここまで読んでもまだ信じられない方は、ぜひ自分の車で実際に実験をしてみるといいでしょう。
文・山沢 達也
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