スポーツカーは危険だという人がいます。
加速性能が良く、スピードも出るのでどうしても危険だというイメージがあるのだと思います。
実際、任意保険などに加入する際も、スポーツカーは保険料が高くなることが多いようです。
保険会社は事故率をもとに保険料を算出していますから、スポーツカーでの事故が多いといのは事実であるに違いありません。
しかし、「事故が多い=危険なクルマ」といった認識はあきらかに間違っています。
事故が多いのは、あくまでも乗る人の問題であって、スポーツカーそのものの安全性能とはまったく関係のない話です。
実は、クルマそのものの安全性能という点のみにフォーカスして考えた場合、スポーツカーは他の車種にくらべて、圧倒的に安全性が高い車であるということがいえるのです。
日本では軽自動車やミニバンが大人気になっていますが、それらのクルマを安全性の面でだけで考えた場合、スポーツカーにくらべて圧倒的に危険なクルマということがいえるのです。
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安全走行に貢献するスポーツカーの足回りやブレーキ性能
クルマそのものが安全かどうかという点を判断するときに、最初に考えなければならないのが「確実に止まることができるかどうか」という点です。
クルマというのは道路上を高速で移動する乗り物ですから、より確実に停車することができるということが安全を考えるうえで非常に重要になります。
つまり、ブレーキ性能の高いクルマこそが、安全性が高いクルマということが言えるわけです。
圧倒的にブレーキ性能が高いスポーツカー
パワーがあってスピードが出るスポーツカーは、当然ながらそれに見合ったブレーキ性能を備えていなければなりません。
スピードが出るのに、それを確実に止めることのできないプアーなブレーキ性能のクルマがあるとしたら、それはただのじゃじゃ馬ということになります。
クルマというのは、パワーが高くなればなるほど、それに合わせてブレーキ性能も高める必要があるわけです。
スポーツカーは、車種によってはサーキット走行などでもまったく問題ないレベルのブレーキ性能を備えています。
一般のクルマにくらべてローターの径も大きく、キャリパーもより性能の高いものが使用されていたりします。
ハイパワーでスピードが出るスポーツカーだからこそ、ブレーキ性能に一切の妥協は許されないということになります。
運転が下手な人こそスポーツカーが安全?
径の大きなローターや専用のキャリパーを使用することで、単純にブレーキの効きがいいというだけではなく、耐フェード性などに対しても大いに優位性を持つことになります。
つまり、スポーツカーのブレーキというのは、発熱によってブレーキ性能が低下しにくいということがいえるのです。
一般道路を走行していて、ブレーキが発熱しやすい状況というのは、長い下り坂を下りるときです。
運転の上手な人であれば、エンジンブレーキをうまく使って、なるべくフットブレーキに負担をかけないように坂を下っていきます。
ところが運転の下手な人は、エンジンブレーキをうまく使えずにフットブレーキを多用して坂を下ることになりますので、ブレーキを発熱させて効きを悪くしてしまいます。
そんな運転の下手な人であっても、サーキット走行も可能なほど耐フェード性能に優れたスポーツカーのブレーキシステムであれば、より安全に坂を下って行くことができるわけです。
ブレーキ以外にもより確実に停車するための条件がそろっています
また、クルマがより確実に停車できるかどうかというのは、単純にブレーキ性能だけでは決まりません。
動いている物体には慣性の法則というものが働きますので、車体の重いクルマほど止まりにくい傾向があります。
トラックやダンプカーの積載重量が厳しく制限されているのは、車重が重くなると止まりにくくなって危険だからです。
また、JAFでも乗車人数によって制動距離がどう変わるかの実験を行っていますが、多人数乗車の方があきらかに制動距離は長くなっています。
その点、スポーツカーというのは軽量に作られていることが多いですので、制動距離を短くするという点で考えれば非常に有利です。
ブレーキ性能が高いうえに軽量ボディなわけですから、スポーツカーがどれだけ「止まるための能力」に優れているか容易に想像がつくと思います。
車体が重いにもかかわらずあまり性能を重視していないブレーキが取り付けられているミニバンなどの方が、むしろスポーツカーよりも危険性が高いといえるでしょう。
それなら、車重の軽い軽自動車は止まりやすくて安全なのかといいますと、必ずしもそうとは限りません。
もともとパワーのない軽自動車には、動力性能に見合ったブレーキしか装着されていませんので、セダンやミニバンなどとくらべて制動距離が短くなるということはありません。
スポーツカーというのは、軽量ボディと動力性能に見合った高性能なブレーキシステムを備えているからこそ、より短い距離でクルマを停車させることができるのです。
さらに、スポーツカーがより確実に止まることのできるクルマであること裏付ける要因がもう一つあります。
それは、極太でグリップ力の高いタイヤです。
スポーツカーというのは、コーナリング性能をあげるために、極太でなおかつグリップ性能の高いコンパウンドが柔らかめのタイヤは履いているのが普通です。
この極太でグリップ性能の高いタイヤがブレーキ性能に大きく貢献しているのです。
クルマというのは、4本のタイヤが路面と接触した状態で走行していますので、路面とタイヤの接地面積が大きければ大きいほど止まりやすくなります。
また、柔らかめのコンパウンドでグリップ力の高いタイヤ(滑りにくいタイヤ)を履いていれば、ブレーキをかけたときにクルマが止まりやすくなるのは当然のことです。
軽自動車が軽量であるにもかかわらず、それほど制動距離が短くならないのは、タイヤのサイズが細いということも1つの原因といえそうです。
強化された足回りでコーナリング性能が高い
スポーツカーの安全性が高いと考えられる理由は、ブレーキの性能以外にもあります。
スポーツカーは俗に足回りと呼ばれるサスペンション関係が強化されていたり、ボディの剛性などが高められていたりします。
足回りが貧弱なクルマに乗ると、直進安定性能やコーナリング性能が低いために、高速道路やコーナーの多い山道などを走行するときにはどうしても走りが不安定になりがちです。
ところが、足回りのしっかりとしたスポーツカーであれば、まさに路面に吸い付くような安定した走りを実現することができるわけです。
また、スポーツカーは車高が低くて低重心であることから、必然的にコーナリング性能は安定することになりますし、背の高いミニバンなどのように横風によってハンドルを取られるといったようなことも起こりにくくなります。
スポーツカーは、硬めのサスペンションや扁平率の低いタイヤを採用しているために、どうしても乗り心地が悪くなってしまいますが、そもそも乗り心地を重視してスポーツカーを購入する人はいないと思います。
あくまでも確実に止まるということや、高速走行でも安定して走れるという点に着目した場合、スポーツカーほど安全なクルマはないということです。
安全面においてスポーツカーが不利な点ももちろんあります
スポーツカーは、ファミリーセダンやミニバンなどにくらべてブレーキ性能やコーナリング性能が高く、安全なクルマであるということを説明させていただきました。
しかし、スポーツカーが他の車種にくらべて安全面で不利な点も、実はいくつかあるのです。
たとえば、車高の低さです。
車高が低いことで、重心が低くなってコーナリング性能がアップしたり、高速道路などで横風の影響を受けたりしにくいというメリットはあるのですが、その反面前方の視界が確保しにくいというデメリットもあるわけです。
ミニバンなどの車高が高いクルマであれば、前方の交通状況を比較的把握しやすいのですが、車高の低いスポーツカーは、その点だけはどうしても不利になります。
最近は軽自動車も含めて車高の高いクルマが非常に多くなっていますので、車高の低いスポーツカーに乗っていると、前方の交通状況をつかみにくく危険を予知しにくくなってしまいます。
もう1点、安全面に関してスポーツカーの不利な点は、車重の軽さです。
クルマを停止させるという点にフォーカスをあてれば、先ほど書かせていただいた通り車重が軽い方が有利です。
しかし、車重が軽いということは、いざ車同士が衝突した際には、どうしても不利になってしまいます。
たとえば、軽自動車とヘビー級のランクルが正面衝突をした場面を想像してみて下さい。
どちらのクルマのダメージが大きいかは、説明をするまでもないでしょう。
参考記事:軽自動車が普通車にくらべて危険だといわれている本当の理由は?
ただ、最近の傾向として、スポーツカーだからといって、単純に車重が軽いということもなくなってきているようです。
たとえば、日本を代表するスポーツカーである日産のGT-Rの車重は、なんと1,730kgもあります。
これは、ヴォクシーやステップワゴンといった2000ccクラスのミニバンよりも重い車重ということになります。
ボディの剛性などを突き詰めていくと、どうしてもこれだけの重さになってしまうのでしょう。
多少ボディが重くても、GT-Rのようにエンジン出力が570馬力もあれば、無条件に速いスポーツカーになってしまうわけですね。
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ハイパワーなエンジンは安全面ではデメリットなのか?
スポーツカーが危険だといわれている理由の一つに、そのエンジンパワーからくるイメージがあると思います。
「スポーツカーはパワーがある=スピードが出る=危険」というイメージになるわけです。
しかし、日本国内における最高速度は、高速道路であっても100km/h(一部の区間では120km/h)に制限されており、ハイパワーなスポーツカーであっても非力な軽自動車であっても、公道を走るスピードは基本的に同じです。
走るスピードが同じであれば、ブレーキ性能や足回りの性能が高いスポーツカーの方が軽自動車にくらべて圧倒的に安全性は高くなりますので、「スポーツカーはパワーがある=スピードが出る=危険」という考えは、あきらかに間違いであるといえます。
むしろ、ハイパワーであることが、安全性につながる可能性もあるのです。
たとえば、制限速度60km/hの片側1車線の一般道で、全長が10m以上もあるトラックが40km/hで走っていたとします。
このトラックを追い越すときに、非力なクルマだとなかなか加速せずに、トラックを完全に抜き切るまでにはかなりの時間がかかってしまいます。
トラックを完全に抜き切るまではずっと対向車線を走り続けることになるわけですから、ある意味では非常に危険な状態であるといえます。
しかし、ハイパワーなスポーツカーであれば、加速性が高いために追い越しは一瞬で終わってしまいます。
結果的に対向車線を走る距離が短くて済むことになり、パワーのあるスポーツカーの方が、安全に余裕をもって追い越しができるということになります。
また、高速道路の合流などでも、加速性能の高いクルマであれば短時間で本線のスピードに合わせられますので安全です。
これから高速道路の制限速度が120km/h時代をむかえるにあたっては、クルマの加速性能というのはこれまで以上に重要になるでしょう。
なぜ安全なはずのスポーツカーの事故率が高いのか?
これまで説明させていただきましたように「確実に止まる」という点や「走行性能が高い」という点などから、スポーツカーはクルマのなかでもひときわ安全性が高い存在であるということは間違いのないところです。
しかし、保険会社で保険金額を算出するための基準の1つである車両料率クラスは、あきらかにスポーツカーが高くなっています。
たとえば、日産マーチの車両保険に対する車両料率クラスが3~4なのに対して、同じ日産のGT-Rの場合は7となっています。
参考:型式別料率クラス検索
車両料率クラスが高いということは、事故を起こす可能性が高いクルマであると保険会社が考えているわけです。
保険会社は、実際の事故のデータをもとに、過去に保険金の支払額が多かったクルマの車両料率クラスを高くしますので、この数字が高いということは実際に事故が多いのでしょう。
それでは、安全性が高いはずのスポーツカーで、なぜ事故を起こしてしまう人が多いのでしょうか?
これは、クルマそのものに問題があるというよりも、あくまでも乗る人の問題といえそうです。
「ハイパワー=スピードが出る」ということになると、どうしても「スピードを出してみたい」と考えてしまうのが人間の性というものです。
しかし、どれほど安全性能的に優れているスポーツカーであったとしても、一般公道で制限速度を無視して猛スピードで走れば、事故を起こしてしまう可能性が高くなるのは当然です。
また、スポーツカーというのは、どうしても若い人に好まれる傾向にあります。
中高年ドライバーにくらべて、若いドライバーというのは、どうしてもスピードを上げて走りがちになりますし、事故を起こす確率も高くなります。
任意保険の料金が若い人ほど高くなるのは、若い人の方が事故を起こしやすいというデータにもとづいているからに他なりません。
アクセルをちょっと踏めば気持ちいいほどの加速性能を示すのがスポーツカーです。
若い人がそんな車を手に入れてしまったら、制限速度を守って安全運転をしなさいという方が、むしろ酷なのかも知れません。
つまり、スポーツカーそのものが危険なのではなく、あくまでも乗る人の「スピードを出したくなる心理」が問題なのであり、危険につながるということです。
「スポーツカーは危険なクルマ」という世間の人が持っているイメージは、当のスポーツカーにしてみれば、まったくの濡れ衣であるといってもいいのかも知れません。
文・山沢 達也
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