日本の公道を走っている乗用車の3台に1台以上は、軽自動車だといわれています。
軽自動車には、維持費が安いとかボディがコンパクトなので車庫入れがしやすい、などといったさまざまなメリットがあります。
しかし、軽自動車は事故を起こした場合には非常に危険である、ということがよく言われているのも事実です。
それはただの噂話に過ぎないのでしょうか?
それとも本当に軽自動車は危険なのでしょうか?
ここでは、公道を走っている乗用車の3分の1以上を占める軽自動車が、普通車にくらべて本当に危険なのかについて考えてみたいと思います。
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軽自動車の安全装備はかなりハイレベル
軽自動車は危険だといわれますが、安全装備という点だけで考えれば、いまの軽自動車は普通車とくらべてまったく遜色ないといっていいでしょう。
エアバッグはもちろんのこと、ABS(アンチロックブレーキシステム)、衝突防止装置などはあたり前ですし、グレードによっては普通車以上の安全装備が装着されている軽自動車もあります。
20年~30年前であれば、一部の高級車にしか取り付けられていなかったこれらの安全装備が、いまでは軽自動車に普通に装備されるようになっています。
また、エアバッグに関しても、運転席と助手席だけではなく、サイド&カーテンエアバッグなどもオプションで装着が可能な軽自動車もあります。
実際に、車同士の衝突による死亡事故のデータをみてみますと、正面衝突よりも出会い頭での事故の方があきらかに死亡率は高いようですので、サイド&カーテンエアバッグは安全装備としてはかなりポイントが高いものといえそうです。
このように安全装備という点から見た場合、決して軽自動車は危険な車ではないということがお分かりいただけるかと思います。
それでは、軽自動車は危険だと主張をしている人は、ウソを言っているのでしょうか?
軽自動車が本当に危険性な理由は車体の軽さです
安全装備面だけをみれば決して危険というわけではない軽自動車ですが、本当に危険だといわれる理由は別のところにあります。
軽自動車が危険だといわれる一番の理由として、コンパクトなボディであるがゆえの車体の軽さがあげられます。
正面衝突や交差点などでの車同士の事故を想定した場合、車体の軽い車の方が大きな衝撃を受けることは容易に想像がつくと思います。
分かりやすい例として、軽自動車が10tダンプカーと正面衝突をした場合を想像してみて下さい。
軽自動車は大破し、中に乗っている人も命が助かればラッキーといえるような悲惨な状況になっているはずです。
それに対して、ダンプカーの方にはそれほど大きなダメージはなく、運転手もほぼ無傷である可能性が高いです。
軽自動車の車重が1t未満なのに対して、10tダンプの重量は空荷でも10t以上、満載状態だと20tにもなりますから、お互いがぶつかったときの衝撃の差は歴然です。
しかし、そんな10tダンプといえども、踏切事故などで列車とぶつかれば悲惨なことになります。
列車の重量は10両編成の場合で300tほどはありますから、10tダンプといえども簡単に吹き飛ばされてしまうことでしょう。
このように、車両重量という点だけを考えた場合、1tに満たない軽自動車が車同士の事故を起こした場合には、圧倒的に不利であり、危険であるということは容易にイメージできると思います。
ちなみに国産乗用車の中で最も重いといわれているランドクルーザーの車体重量は、2.5tほどになります。
軽自動車3台分の重さとなりますので、単純に重さだけで考えた場合は、国産で一番安全な乗用車はランドクルーザーということになります。
ただし、車両重量のある車に乗るということは、自分自身が安全になる反面、事故を起こした時には他の人に致命傷を与えてしまう可能性が高くなりますので、より慎重な運転が求められます。
ちなみに、警視庁が発表したデータによりますと、75歳以上の方が軽自動車で事故を起こしたときの致死率は1.22%なのに対して、普通車の場合は0.77%だそうです。
つまり、事故を起こしたときには軽自動車の方が普通車にくらべて1.6倍も致死率が高いということになります。
軽自動車はコンパクトで軽量なボディゆえに、どうしても致命傷を負う可能性が高くなってしまうのでしょう。
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コンパクトゆえにクラッシャブルゾーンが少ない軽自動車
軽自動車が危険だと考えられている理由は、ボディの軽さだけではありません。
軽自動車は、全長3.4以下、幅1.48m以下、高さ2m以下という限られたサイズのなかで、室内の広さを可能な限り広くするように設計されています。
その結果として、クルマが衝突したときの衝撃を吸収するためのスペースが犠牲になってしまっているのです。
クルマには、ぶつかったときに衝撃を吸収するためのクラッシャブルゾーンというものが設けられています。
クラッシャブルゾーンが潰れることによって、衝突の際の衝撃を緩和することができるわけです。
限られたボディサイズのなかで、室内の広さを確保しようと思ったら、どうしてもこのクラッシャブルゾーンの広さが犠牲にならざるを得ないわけです。
また、軽自動車のドアを開けてみると分かりますが、ドアの厚みが普通車とくらべてあきらかに薄くなっています。
たとえば、ワゴンRの全幅は1475mmなのに対して、室内幅は1355mmです。
この数字をもとに計算をしてみると、ドアの厚みはわずか60mmしかありません。
これだけドアが薄いと、側面からまともにぶつかられたときに衝撃を受け止めることができるのかどうか不安になります。
比較対象としてトヨタのプリウスを見てみますと、全幅が1760mmなのに対して、室内幅は1490mmですから、ドアの厚みは135mmあることになります。
ただ、軽自動車にはそれほど大きなクラッシャブルゾーンは必要ないと主張する人がいることも事実です。
運動エネルギーというのは、「速さ×質量」で求められますので、クルマがぶつかったときの衝撃エネルギーは車体が軽いほど少なくなります。
衝撃のエネルギーが少なければ、衝撃を吸収するためのクラッシャブルゾーンも狭くて十分であるという考え方です。
しかし、これはあくまでも机上の空論にすぎません。
JNCAPが行った衝突安全性能試験の結果をみれば、クラッシャブルゾーンの少ない軽自動車が危険であることはあきらかです。
軽自動車の乗員保護性能の平均点数が76点ほどなのに対して、車体が重くて衝撃エネルギーが強いはずの2000cc以上の乗用車では、乗員保護性能の平均点数が93点にもなります。
ボディの重さが軽くて、衝突の際の衝撃エネルギーが小さかったとしても、その衝撃をしっかりと吸収できるだけのクラッシャブルゾーンがないと、中に乗っている人は保護できないということになります。
重量が軽いとブレーキが利きやすいから軽自動車は安全?
車同士がぶつかる事故の場合、どうしても車両重量の軽い軽自動車は不利であるということは先ほど説明した通りです。
しかし、車両重量が軽いということは、安全面においてすべてがデメリットとなるとは限りません。
「車重が軽いということは運動エネルギーが少ないのでブレーキが利きやすくなるのではないか?」そんなふうに考える人もいることでしょう。
ブレーキがよく利いて制動距離が短いということであれば、事故を回避できる可能性が高くなるので安全ということがいえます。
過去に、積載オーバーのダンプのブレーキが利かなくなり、悲惨な追突事故が相次いだことから、過積載の取り締まりが厳しくなったという経緯があります。
このことからもお分かりのように、車は重くなればなるほど止まりにくくなるのです。
先ほども書きましたように運動エネルギーというのは、「速度×重さ」で求められますので、同じ速度で走っているクルマであれば、車体の重いクルマの方が、運動エネルギーが大きく止まりにくいということになります。
踏切事故などでも、列車はかなり前から障害物を発見しているにもかかわらず、何百tもの重さがある車体をそう簡単には止めることはできないのです。
そういったことを考えた場合、車体重量の軽い軽自動車は、普通車にくらべて短い距離で止まることができるので安全なのではないか、と考える人がいたとしても不思議ではありません。
しかし、実際には軽いクルマほど制動距離が短くなるといったような単純な話ではないのです。
自動車事故対策機構が行ったデータによりますと、時速100km/hからの制動距離が軽自動車の平均で42.9mとなっています。
それに対して、車重のあるミニバンの制動距離は41.7mという結果になっています。
軽自動車の車重の平均が900kgに対して、ミニバンの平均車重は1884kgと約2倍です。
この試験結果だけを見ると、車重の重いミニバンの制動距離のほうがむしろ短く、より安全性が高いという結果になっています。
なぜ、このような物理の法則に反する結果になったのかといいますと、メーカーは車の重さに対応した最適なブレーキシステムを車種ごとに取り付けているという点があげられます。
つまり、車体の重いクルマには、それに見合った性能のブレーキが取り付けられているということになります。
もし、軽自動車に取り付けられているブレーキをそのままミニバンに取り付けたら、それこそ車が止まらずに大変なことになってしまうでしょう。
また、車の制動距離にはタイヤのサイズも大きく影響してきます。
軽自動車のタイヤにくらべてミニバンのタイヤは幅が広くなっており、路面に対する接地面積が大きくなります。
接地面積が大きくなれば、路面に対して踏ん張る力が強くなりますので、より止まりやすくなるわけです。
このように、イメージ的には車体が軽くて止まりやすいと思える軽自動車ですが、実際には制動距離に関してアドバンテージはまったくないということになります。
高速道路120km/h時代にますます危険性が高くなる軽自動車
日本の高速道路における制限速度は、長い間100km/hでしたが、一部の区間で制限速度を120km/hに緩和して試験走行を開始しています。
その試験結果によっては、今後はどんどん120km/h区間が増えていくことでしょう。
高速道路120km/h時代が到来するにあたって、軽自動車はますます危険にさらされる可能性が高くなります。
確かに軽自動車であっても最高速度は130km/hくらいまで出ますので、本線に入ってしまえば流れに乗って走ることも可能です。
関連記事:国産車の最高速度はどれくらい?~ミニバンだと160km/h・GT-Rは315km/h
しかし、問題はその加速性能です。
本線に合流するためには、合流車線を加速していって本線の流れと同じスピードにする必要があります。
エンジンパワーに余裕のある普通車であればそれほど問題になることはありませんが、非力なノンターボの軽自動車が合流車線を120km/hまで加速させるというのはかなり厳しいはずです。
うまく本線の流れない状態で合流すると、他のクルマの流れを阻害することになって、危険が伴う可能性もあります。
やはり、きびきびと流れにそって安全に走行するためには、ある程度のエンジンパワーは必要なのです。
こういった点で考えてみても、軽自動車は普通車にくらべると危険性が高いということがいえるわけです。
関連記事:高速道路120km/h時代に軽自動車やコンパクトカーは対応できるのか?
文・山沢 達也