ターボ車と聞いてどのようなイメージを持つでしょうか?
多くの人は「ハイパワー」とは「燃費が悪い」といったイメージを頭に思い浮かべるに違いありません。
しかし、最近のターボ車は大きく変わりつつあります。
これまでのターボ車のイメージからは想像ができないかも知れませんが、「低燃費」を目的にターボエンジンを搭載する車が増えてきたのです。
つまり、「ターボ車は燃費が悪い」というこれまでの共通認識が、180度覆されつつあるわけです。
いったい、どのようにターボエンジンによって低燃費を実現しているのでしょうか?
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そもそもターボエンジンとはどんな仕組みでしょうか?
これまでターボ車がハイパワーであったり、あまり燃費がよくないということは知識として知ってはいても、それがどのような仕組みでそうなのかを知っている人は多くないでしょう。
・エンジンの出力は排気量に比例する
ターボエンジンというのは、ターボチャージャーと呼ばれる過給器を設置したエンジンということになります。
過給器がついていない普通のエンジン(自然吸気エンジン)の場合、シリンダー内に取り込まれる混合気(空気とガソリンが混ざった気体)の量は排気量によって決まってしまいます。
ピストンの径とストローク長によって、シリンダー内の容量は必然的に決まってしまいますので、これは当然のことです。
エンジンというのは、シリンダー内に取り込む混合気の量が多くなればなるほど、出力がアップします。
1500ccのクルマよりも2000ccのクルマの方がハイパワーなのは、2000ccのエンジンの方が一度にたくさんの混合気をシリンダー内に取り込んで爆発させることができるからなのです。
基本的に、エンジンのパワーというのは、排気量に比例するといってもいいでしょう。
しかし、例外があります。
それがターボチャージャーなどの過給器を使った場合です。
・同じ排気量でもターボだとハイパワー化する
ターボチャージャーは、排気ガスの力を利用してタービンを回転させ、そのタービンの圧力によって強制的に大量の混合気をシリンダー内に送り込む装置です。
排気量が同じであっても、シリンダー内に送り込まれる混合気の量が多くなることによって、その分だけ爆発力が強くなり、ハイパワー化するわけです。
これが、自然吸気エンジンにくらべて、ターボエンジンのパワーが高くなる理由となります。
このように、本来はターボエンジンというのは、限られた排気量の中で、エンジンの出力を上げるための装置だったわけです。
たくさんの混合気をシリンダー内に送り込むわけですから、自然吸気による同排気量のクルマにくらべて燃費が悪くなるのも当然といえば当然なわけです。
なぜターボエンジンは低燃費化に貢献するようになったか
ここまでの説明で、ターボ車というのはハイパワーで燃費が悪いというこれまでの常識ともいえるイメージを再認識できたことでしょう。
それでは、そんな燃費が悪い車の代名詞のようなターボ車が、なぜいま低燃費車として注目されているのでしょうか?
そこには逆転の発想があったわけです。
同じ排気量であれば、自然吸気エンジンよりもターボエンジンの方がハイパワーであるということは、逆にいうと必要なパワーが同じであれば、エンジンの排気量を小さくできるということです。
これが小排気量ターボ車の基本的な考え方です。
エンジンの排気量を小さくすることができれば、サイズ的には小さくなりますし軽量化も出来ます。
イメージとしては、自然吸気だと2000ccのエンジンを積むべき車に、1300ccのエンジンを積むような感じです。
パワーが同じだった場合、重い車と軽い車では、どちらの方が燃費が良くなるのかは考えるまでもないでしょう。
また、エンジンのサイズが小さくなることで、シリンダーとピストンなどのような可動部の摩擦が減り、内部損失が低減することになります。
直噴エンジンの登場がターボを変えた
ターボエンジンが低燃費に貢献できるようになったのは、エンジンを小型化できることによるメリットを生かしただけではありません。
実は直噴エンジンが登場したことが、ターボエンジンの燃費化に大きく貢献しているのです。
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・ターボエンジンの宿命であったノッキングの問題
初期の頃のターボエンジンには、ノッキングを起こしやすいという大きな欠点がありました。
ターボエンジンは混合気が高温になるために、ピストンが一番上に行く手前で自然発火を起こしてしまうのです。
これがいわゆるノッキングという現象です。
そのため、ノッキングを起こしにくくするために、過給器による圧がかからない通常状態での圧縮比を意図的に下げていたのです。
圧縮比というのは、シリンダー内に吸い込んだ混合気を、ピストンによって圧縮する比率のことです。
圧縮比が高くなればなるほど、混合気は高熱化して自然発火しやすくなります。
そのため、もともと温度の高いタービンからくる混合気の温度をあげないように、ターボエンジンの圧縮比は低く設定されていたのです。
しかし、圧縮比の低い状態では、エンジンは強いトルクを発生させることができません。
そのため、初期の頃のターボエンジンは「どっかんターボ」などと言われました。
低速ではトルクがなくスカスカな走りなのに、ターボによる過給が始まってある一定の回転数になると「どっか~ん」とパワーが炸裂するため、そう呼ばれました。
街中では、非常に乗りづらい特性だったのです。
混合気の温度を下げるためのインタークーラーなども取り付けられましたが、ターボエンジンのノッキングの問題を根本的に解決することは出来ませんでした。
・ノッキングの問題を大きく改善させた直噴エンジン
しかし、直噴エンジンというものが登場したことにより、この状況は大きく変わります。
それまでのエンジンは、空気とガソリンが混ざった混合気をシリンダー内に取り込んでいたのですが、直噴エンジンの場合には、シリンダー内に取り込むのはあくまでも空気だけになります。
そして、ピストンが一番うえまでいったタイミングで、直接シリンダー内にガソリンを噴射させるわけです。
混合気ではなく、空気だけであればどんなに高温になっても自然発火するとはありません。
このように、直噴エンジンの登場によってノッキングの問題が解決され、ターボチャージャーを装着したエンジンであっても、自然吸気並みの圧縮比を確保することができるようになったのです。
その結果、かつてのような「どっかんターボ」は姿を消し、低速から十分なトルクの出るとても乗りやすいターボエンジンが登場したのです。
このように、低速からトルクが得られるターボエンジンが誕生したことによって、大きなサイズのクルマに小さな排気量のエンジンを載せることが可能になったわけです。
小排気量によってポンピングロスの問題を解決
クルマに載せるエンジンを小排気量化することで得られるメリットは、軽量化だけではありません。
実は、ポンピングロスを減らすことができるというメリットがあるのです。
エンジンというのは、回転数によってトルクの強さが変化します。
そのため、ある程度トルクが強くなる回転数まで回した状態で走るのが、効率的にはよくなるのです。
逆に、トルクがあまり発生しない低回転の状態というのは、もっと回りたがっているエンジンに対して、アクセルを絞ることで回転の上昇を押さえつけている状態になるわけです。
押さえつけられているということは、そこにロスが生じるわけで、それをポンピングロスとよぶわけです。
運転のあまりうまくない人が、あまりアクセルを踏み込まずにノロノロと発進することで、かえって燃費が悪くなることがあるといわれるのはそのためです。
参考記事:車はゆっくり発進したほうが低燃費なんて真っ赤なウソかも?
それならば、小排気量のエンジンを積んで、ある程度回転数をあげて走るようにすれば、ポンピングロスの問題は解決できそうです。
しかし、つねにエンジンの回転数をある程度上げた余裕のない状態で走らせるということは、例えば高速走行をしたり追い越しをしたりといった、さらにパワーが欲しいときには、まったく余裕がなくなってしまうわけです。
そういった小排気量のメリットをカバーするのが、ターボチャージャーということになるわけです。
小排気量ターボエンジンを搭載することによって、軽量化とポンピングロスの軽減による効率アップで低燃費化を実現しつつ、なおかつターボチャージャーによって十分なパワーも得られるようになったわけです。
「ハイパワー」や「低燃費」の代名詞のような存在だったターボ車が、低燃費車として注目されるようになった背景には、このようにさまざまな理由があったわけです。
ターボ車の実燃費に関しては、以下のサイトが参考になります。
文・山沢 達也
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