年式の割にたくさんの距離を走っているクルマは、過走行車として売却時に査定を受けるときに不利な扱いになります。
クルマというのは機械ですから、使えば使うほど劣化をしていくと考えるのが普通だからです。
それなら、走行距離はなるべく少ない方がいいのかというと、必ずしもそうとは言えません。
なぜなら、あまり乗られていなくて年式に対して走行距離が極端に少ないクルマも、調子が悪くなってしまうことが多いからです。
たまにしか乗らなくて走行距離が少ないから、状態の良い車であると考えるのは大きな間違いなのです。
なぜ、クルマはあまり乗らないと逆に調子が悪くなることがあるのでしょうか?
スポンサーリンク
走行距離が極端に少ない中古車は買わない方が無難?
一般に、クルマの走行距離は1年あたり1万kmが目安だといわれています。
つまり、5年落ちのクルマであれば、5万km程度の走行距離であれば、可もなく不可もなくといった評価がされるわけです。
これが同じ5年落ちでも7万kmや8km走行したクルマになると、過走行ということで中古車としての価値が下がってしまうわけです。
反対に3万km程度の走行距離であれば、年式の割にあまり走っていないクルマということで評価は高くなります。
それでは、5年落ちなのに走行距離が5千kmとか1万kmといった、極端に走っていないクルマの場合はどうでしょうか?
年式の割に圧倒的に走行距離が少ないわけですから、中古車としては特上車というふうに考える人もいるでしょう。
しかし、クルマに詳しい人であれば、決してそんな中古車は購入しません。
クルマは動かすことを前提として作られた機械であるということを考えた場合、単純にそのクルマを特上車として評価をすることはできないからです。
あまり乗られていないがゆえに、むしろクルマが劣化してしまうということもあり得ます。
1ヵ月に1度か2度レジャーのために使うクルマよりも、通勤で毎日のように走らせているクルマの方がずっと調子がよかったりするのです。
乗らないことによってエンジンが摩耗するドライスタートの恐怖
クルマのエンジンというのは、シリンダーの中でピストンが上下運動をすることで動力を得る仕組みになっています。
しかし、シリンダーもピストンも金属でできていますから、そのままの状態では摩擦を起こしてしまいますので、それを防止するためにエンジンオイルによって潤滑されているわけです。
エンジンがかかっている状態であれば、つねにオイルポンプがシリンダー内にエンジンオイルを送り続けていますから、ピストンとシリンダーが摩擦を起こすこともなくスムーズに動くことになります。
ところが、問題になるのはエンジンが止まっていて、エンジンオイルがオイルパンに下がってしまっている状態からスタートするときです。
オイルポンプが作動してエンジンオイルがシリンダー内に回ってくるまでのほんのわずかな時間は、オイルがない状態でピストンが動くことになります。
ほんのわずかな時間であっても、潤滑されない状態でピストンが動けば、金属と金属が直接こすれ合うことになりますから、そこには摩耗が生じることになります。
これを繰り返すことによって、どんどんエンジン内部が摩耗による劣化を起こしてしまうことになるわけです。
エンジン内部が乾いた状態からスタートをするので、ドライスタートなどと呼ばれています。
・短時間にエンジンを再始動させる場合は問題ありません
エンジン内部を摩耗させてしまうドライスタートですが、エンジンを止めてからあまり時間がたっていない状態から再始動させる場合にはまったく問題にはなりません。
なぜなら、エンジンが停止してもしばらくの間は、シリンダー内にエンジンオイルが残っているからです。
オイルというのは粘度がありますから、すぐにドライ状態になってしまうわけではありません。
最近のアイドリングストップ付のクルマやハイブリッドカーは、頻繁にエンジンを停止させたり始動させたりを繰り返します。
しかし、エンジンが止まっている時間が短時間なので、ドライスタートにはならず、特に問題になることはないわけです。
スポンサーリンク
・シリンダーの摩耗によりマフラーから白煙が出ることも
エンジンの始動で問題になるのは、完全にエンジンオイルがオイルパンに落ちてしまっている状態からの再スタートです。
粘度のあるオイルといえども、時間がたてばどんどんオイルパンに下がっていってしまいます。
そして、シリンダー内から完全にオイルが落ち切った状態でセルモーターを回すと、いわゆるドライスタートということになってしまいます。
シリンダー内にオイルがない状態でピストンが動くことになりますので、当然ながら摩耗が起こります。
これを何度も繰り返すことによって、徐々にシリンダー内の摩耗は進んで行くことになるのです。
エンジン摩耗の90%は、ドライスタートによるものだという説すらあります。
一般のクルマは15万km~20万km程度で廃車にされてしまうことが多いですが、長距離トラックは、廃車になるまでに100万kmも走行します。
長距離トラックはつねにエンジンをかけたままで長い距離を毎日のように走行をするため、一般のクルマにくらべてドライスタートが起こりにくいことが理由の一つだといわれています。
参考:年間に10万km以上走る長距離トラックの寿命は?~100万kmでも問題なく走ります
それに対して、一般のクルマは頻繁にエンジンを停止させたり始動したりを繰り返しますので、長距離トラックにくらべると、どうしてもドライスタートが起こりやすくなってしまうわけです。
ドライスタートによってエンジン内部の摩耗が進めば、シリンダーの圧縮が抜けてしまってパワーダウンの原因になります。
また、燃焼室内にオイルが上がってしまってオイルが燃焼するようになったりします。
そのような状態になってしまったクルマは、オイルの燃焼によってマフラーから白い煙が出るようになり、オイルの減りも早くなります。
・レジャー目的で普段はあまり乗らないクルマは要注意
ここまでの説明で、ドライスタートがエンジンの寿命に大きく関係しているということはお分かりになったかと思います。
ただし、通勤などで毎日のように乗っているクルマであれば、ドライスタートのことを考える必要はまったくありません。
エンジンを止めたからといって、シリンダー内のエンジンオイルが短時間ですべてオイルパンに落ちてしまうわけではないからです。
最低でも1週間に1度程度エンジンをかけていれば、ドライスタートによる摩耗がエンジンに大きく影響することはないでしょう。
最近のオイルは性能がいいので、そう簡単にはシリンダー内がドライ状態になることはありません。
問題になるのは、数ヶ月に1度程度しか乗らないようなクルマです。
レジャー用に買った車で、家族で出かけるときにたまに乗る程度の使い方をしているクルマが問題になるわけです。
たとえば、キャンピングカーなどです。
キャンピングカーは、年に数回キャンプに行くときだけエンジンをスタートさせることになります。
年に数回しかエンジンをかけないとなると、ドライスタートによってエンジン内部がダメージを受ける可能性が高くなります。
キャンピングカーというのは、目的が限られているために走行距離そのものは少ないですが、エンジンの調子はあまり良くないクルマが多そうだということが容易に想像できます。
車を長期間放置しておくとどうなってしまうのか
たまにしかエンジンをかけないクルマは、ドライスタートを繰り返すことになるので、シリンダー内が摩耗してしまう可能性があるというお話をさせていただきました。
しかし、たとえ1ヵ月に1度か2度であっても、ときどき乗っているクルマであれば、ドライスタートの影響でエンジンが壊れてしまうということはないでしょう。
クルマが恐ろしい状況になってしまうのは、さらに長い間乗らないで放置されたままになった場合です。
長期間放置されたクルマは、エンジン内部のオイル切れだけではなく、さまざまなところに不具合を生じるようになります。
実際に、2年ほどまったく乗ることなく放置された車を整備士の方が点検したところ、以下のような悲惨な状態になっていたそうです。
●ファンベルトも劣化がひどく、いつ切れてもおかしくないような状態。
●タイヤの劣化も進み、全体的にひび割れがひどく、とても使えないような状態。
●ブレーキホースが裂けていて、いまにもオイルが漏れだしそうな状態。(超危険)
●ガソリンタンク内はサビだらけで、フィルターも詰まってしまって使えない状態。
●プラグコードが腐ってしまって、いまにも断線しそうな状態。
●バッテリーは完全に放電してしまってまったく使えない状態。
たった2年放置していただけで、クルマというのはこういった状態になってしまうわけです。
さすがにこの状態のクルマを運転しようなどと考える人はいないでしょう。
もし長い間乗っていないクルマがガレージにあるのであれば、再始動時には必ず整備士に点検をしてもらうようにしましょう。
クルマというのはあくまでも機械ですので、常に動かしていることでベストな状態を保つことができるわけです。
中古車販売店でみつけた、年式の割に走行距離が少ない特上車だと思っていたクルマが、このように長期間放置されていたクルマの可能性があると考えただけでゾッとすると思います。
何度も繰り返しますが、年式の割に極端に走行距離の少ない中古車は、特選車どころかむしろ要注意のクルマである可能性があるのです。
逆に、けっこうな走行距離を走っているにもかかわらず、エンジンの調子が意外なほどよかったりすることがあるのは、常に動かしてあげることによってベストなコンディションを維持できているからだと思います。
あまり乗らない車のメンテナンス方法
それでは、レジャー目的で購入して普段あまり乗らないクルマは、どのようなメンテナンスをして良い状態を維持したらいいのでしょうか?
そんなに難しく考えることはありません。
クルマをときどき動かしてあげることが、一番のメンテナンスになるのです。
最低でも1週間~2週間に1度程度はしっかりとエンジンをかけて、近所まわりを軽く走らせるだけでも十分に劣化防止になります。
また、オイルなども距離数はそれほど走っていなくても、時間がたつことによりどんどん劣化しますので、1年に1回程度は交換したほうがいいでしょう。
また、ガソリンタンク内の錆を防止するために、水抜き剤なども入れておくようにするといいでしょう。
ガソリンスタンドなどでよく水抜き剤を勧められたりしますが、普通に動かしているクルマであれば必要はありません。
しかし、あまり乗らないクルマの場合は、水抜き剤を入れておく方が無難といえます。
ただし、最近のクルマはタンク内が樹脂加工してあるものがほとんどです。
そういったクルマであればそもそもタンク内が錆びることがありませんので、水抜き剤は不要ということになります。
あまり乗らないとガソリンの劣化でエンジンが不調になる?
ガソリンには、特に使用期限のようなものはありませんが、半年ほどたつとだいぶ劣化が進んでしまいます。
ガソリンが入ったままのクルマを2年ほど放置しておきますと、ガソリンがドロドロに腐ったような状態になってタンク内から悪臭を放ちます。
このような状態になったガソリンを使い続けると、エンジンを不調にしてしまうばかりか、最悪の場合はタンクや配管などの交換が必要になることもあります。
最近のクルマは非常に燃費がよくなっていますので、月に数回しか乗らないようなクルマのガソリンタンクを満タンにしてしまうと、すべてのガソリンを使い切るまでに1年以上もかかってしまう可能性があります。
つまり、ガソリンの給油ランプが点灯するころには、ガソリンはかなり劣化した状態になってしまうということです。
あまり乗らないクルマの場合は、10リットルや20リットルずつこまめに給油をするようにした方が、クルマのためにはいいでしょう。
遠出をするときには、走る距離に応じてフレッシュなガソリンを必要なだけタンクに追加するようにすればいいのです。
面倒に感じるかも知れませんが、あまり乗らないクルマのコンディションを良好に保つためには、劣化したガソリンをエンジンに送り込まないようにするも大切なのです。
文・山沢 達也
スポンサーリンク