最近は変速機にCVTを採用するクルマが圧倒的に多くなってきました。
かつては、マニュアル車に対してオートマチック車といえば、トルクコンバーター式のものを指すのが普通でした。
しかし、いまやトルクコンバーター式のオートマッチク車の数は徐々に減っていき、変速機の主流はCVTになっています。
現在販売されている新車を見た場合、軽自動車でCVTを採用する割合は8割を超えており、普通車でも7割を超えているようです。
ここまでCVTが普及してきた背景には、エンジンから発生するエネルギーを効率よく伝えることが可能なため、燃費の向上が期待できるということがあります。
なぜCVTはエンジンからのエネルギーを効率よく伝えることができるのでしょうか?
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そもそもCVTとはどんな仕組みの変速機?
MTとATは、構造的には似ているといえます。
どちらも、何段階かのギアの比率を組み変えることによって、変速をする仕組みになっています。
変速のときマニュアル式のクラッチを使用するか、トルクコンバーターという装置を経由してクラッチレスで変速するかの違いだけです。
それに対して、CVTというのは根本的に構造が異なります。
そもそも、CVTには変速のためのギアが存在しません。
ギアではなく2つのプーリーの径を連続的に変えることによって変速をするわけです。
そのため、CVTを無段変速機などと表現したりすることもあります。
CVTの場合にはMTやATのようにギアがないため、変速ショックというものがまったくありません。
連続して滑らかなフィーリングで加速をしていくことができるわけです。
エンジンの一番おいしい部分を維持しながら加速
CVTのクルマに初めて乗った人は、加速時に想像以上にエンジンの回転が上がっていることに驚くと思います。
MTやATのように、ギアを介在する変速機の場合には、エンジンの回転数の上昇とともにクルマが加速をしていくことになります。
ところが、CVTの場合には、実際の速度以上にエンジンの回転数が上昇してしまうために、MTやATに慣れた人にとっては、違和感をおぼえることになるわけです。
加速時に、実際の速度以上にエンジンの回転数が上がってしまうということは、燃費的には不利になるのではないかと考える人もいるかも知れません。
しかし、車のエンジンというのは、低回転時にはトルク(回転力)が発生しにくいという欠点があるのです。
そのため、発進時にエンジンの回転があまり上がらない状態のままで加速をすると、逆に効率が悪くなってしまうのです。
エンジンの効率が最大によくなる回転数は、最大トルクの80%程度のトルクを発生するあたりだといわれています。
車種によっても異なりますが、一般的に3,000~4,000rpmあたりがそのポイントになると思います。
CVTはこうしたエンジンの効率のいい回転域を有効に使うことで、ATにくらべて燃費のよくなる可能性が高くなるわけです。
よく、エンジンをあまり回さないでゆっくりと加速したほうが、燃費がよくなると主張する人がいますが、エンジンの特性を考えた場合それは間違いであるといえます。
参考記事:車はゆっくり発進したほうが低燃費なんて真っ赤なウソかも?
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変速時のエンジンの回転数が変わらないことのメリット
CVTにはMTやATのようにギアがありませんから、ギアが切り替わるときの変速ショックというものがまったくありません。
エンジンがしっかりとトルクを発生するおいしい部分を活用しながら、スムーズに連続して加速していくことができます。
そして、変速によるエンジンの回転数に変化を生じないという点も、CVTがエネルギーを効率よく伝えることができる理由の1つになっています。
MTやATの場合、タコメーター(回転計)を見ていると分かりますが、ギアが切り替わるタイミングで、エンジンの回転数が一気に下がります。
AT車の加速中は、タコメーターの針が上がったり下がったりピコピコ動いていると思います。
エンジンの最も効率の良くなる回転数は3,000~4,000rpmあたりですが、加速をしていってせっかくエンジンがこのおいしい回転数まで回ったと思ったら、変速のタイミングで一気に回転数が下がってしまうわけです。
そして、加速をしている間は、何度もギアが切り替わることになりますから、これを繰り返すことになります。
ずっとおいしい部分だけを使って加速をするCVTに対して、ギアを切り替えるタイプの変速機は、どうしても変速のタイミングで回転が下がってしまうことで効率が悪くなってしまうのです。
また、エンジンにはフライホイールと呼ばれる、回転を安定させるための「はずみ車」が装着されています。
このフライホイールは重量があるために、勢いよく回ることによって運動エネルギーを蓄えることができます。
しかし、変速のたびにエンジンの回転数が下がってしまうということは、せっかく勢いよく回ったフライホイールの運動エネルギーを捨ててしまうことになるわけです。
加速時にエンジンの回転を一定に保つことのできるCVTの場合、フライホイールにたまった運動エネルギーを有効に活用することができるわけです。
エンジンの回転が下がることを避けるためのATの多段化
このように、エンジンのもっとも効率のいい回転域を有効に使うことによって、CVTは燃費を向上させることができるわけです。
しかし、そんなエンジンの伝達効率をアップさせることができるCVTですが、構造上あまり大きな排気量のクルマには採用することができません。
CVTは動力を伝達するために金属ベルトを使用しますが、このベルトの強度を大排気量でハイパワーなエンジンに対応できるまで強くすることは、とても難しいといわれています。
CVTが軽自動車やコンパクトカーに多く採用されるのは、そういった理由があるからなのです。
しかし、大排気量のクルマに採用される旧来のATも、そういったCVTのメリットに対して指をくわえて見ているわけではありません。
変速時のエンジンの回転数の低下をなるべく少なくするために、ATの場合はギアの多段化で対応しつつあります。
これまでのATは、4速~5速というのが一般的でした。
そのため、どうしても各ギヤの変速比に大きな差が生じてしまい、変速時にエンジンの回転数が下がってしまいました。
しかし、最近では大排気量の高級車を中心に、6速~8速という多段化したATが搭載されるようになってきました。
レクサスのLC500には、なんと10速ATが採用されています。
このように、ATを多段化することによって、変速時におけるエンジン回転数の変化を極力減らすことが可能になるわけです。
そのため、排気量の大きいクルマの場合には6速以上のATを採用することで、CVTとそれほど変わらない効率のいい走りが実現できるといわれています。
CVTの変速機単体での伝達効率はあまりよくない?
エンジンのおいしい部分を有効に使って効率のいい走りを実現させているCVTですが、実は変速機単体で見た場合、それほど伝達効率は良くないのです。
MTの場合には、エンジンのパワーをクラッチ経由で直接伝達するためほとんどロスがなく、95%以上の伝達効率があるといわれています。
それに対してATの場合ですと、低速時が80%程度、高速時が90%程度の伝達効率になるといわれています。
クラッチでエンジンとミッションをダイレクト接続するMTに対して、トルクコンバーターを間にはさむATの伝達効率が悪くなってしまうのは、仕方のないところです。
さらにCVTの伝達効率をみてみますと、低速時は85%程度で、高速時には75%となってしまいます。
低速時にはATよりも伝達効率がいいのですが、高速になるとむしろ悪くなっています。
これは、CVTの構造上どうしてもプーリーと金属ベルトに滑りが生じてしまうために、その分がロスとなってしまいます。
特に高速走行になると空気の抵抗などが大きくなりますので、負荷がかかる分だけ滑りも大きくなるわけです。
日常的に渋滞の多い道路を走ることの多い人にとっては、CVT車は燃費的に有利ですが、高速道路ばかりを走っている人にとっては、むしろ普通のAT車の方が燃費が良くなる可能性があるといえます。
文・山沢 達也
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