かつては、10万km以上走行したクルマのタイミングベルトが交換されているかどうかということが、中古車の価値を見きわめる重要な判断材料となっていました。
つまり、「10万kmオーバーでタイミングベルトを交換していない中古車は購入すべきではない」というのは常識だったわけです。
しかし、現在ではよほど古いクルマでなければ、タイミングベルトのことを気にする必要はなくなっています。
なぜなら、最近のクルマにはタイミングベルトではなく、タイミングチェーンが使われるようになっているからです。
ここでは、タイミングベルトとタイミングチェーンの違いや、10万km以上でタイミングベルトの交換が必要な車種などについて解説してみたいと思います。
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なぜタイミングベルトは10万kmで交換しなければならないのか?
1980年代以前のクルマには、現在のクルマと同様にタイミングチェーンが使われていました。
ところが1990年代以降になると、高性能なタイミングベルトが登場することによって、コスト的に高くなおかつ静粛性に劣るタイミングチェーンは使われてなくなっていきました。
タイミングベルトとタイミングチェーンの役割はまったく同じです。
クランクシャフトの回転運動を、バルブを開閉させるカムシャフトに伝える役割を担っています。
クルマにあまり詳しくない人の場合、ファンベルトと勘違いすることもあるようですが、それとはまったく用途が異なります。
タイミングベルトやタイミングチェーンというのは、エンジン内部の高温になる環境に常にさらされた状態で使われることになります。
タイミングチェーンであれば、金属でできていますから高温にも耐えられ、摩耗にも強いのために、走行距離が30万km程度になるまでは交換が不要だとされています。
しかし、タイミングベルトの場合は、ゴム樹脂で作られていますので金属であるチェーンにくらべて耐久性が劣ることになります。
そのため、自動車メーカーは、タイミングベルトを交換する目安を10万kmまたは10年というふうに定めたわけです。
ただし、これはあくまでも目安であって、高回転を多用するスポーツタイプのクルマなどの場合、5万km程度でタイミングベルトが切れるケースもあったりします。
走行中にタイミングベルトが切れると非常に危険が伴います
もし、走行中にタイミングベルトが切れると、どういった現象が起こるのでしょうか?
タイミングベルトが切れるということは、クランクシャフトの回転運動がカムシャフトに伝わらなくなるということです。
その結果、エンジンの吸気や排気を担っているバルブが働かなくなりますので、エンジンはストップすることになります。
そして、エンジンが停止してしまうと、パワステが効かなくなってしまったり、ブレーキペダルが重くなったりします。
走行中にこういった現象が起こると、非常に危険であるということは容易に想像がつくことでしょう。
また、タイミングベルトが切れると、エンジンがストップするだけではなく、エンジンそのものを破損させてしまう可能性が非常に高くなります。
エンジンのシリンダー内部では、ピストンが高速で上下運動をしています。
タイミングベルトが切れることによって、シリンダーの上部にあるバルブが開きっぱなしなってしまうと、ピストンがバルブと衝突(バルブクラッシュ)することになります。
高速で動いているピストンがバルブにぶつかるわけですから、エンジン内部が致命的な状況になってしまう可能性が高いということになります。
もし、そうなってしまった場合、エンジンの修理費用に20万円以上かかることもあります。
また、最悪の場合は、エンジンから火がでることもあります。
そうなったときにはドライバーの身が危険にさらされることになりますし、クルマも廃車になってしまう可能性があります。
このように、走行中にタイミングベルトが切れると、さまざまな危険を伴うことがあるために、それを防止する意味で10万kmごとに必ず交換をする必要があるわけです。
ちなみに、タイミングベルトの交換費用は、車種にもよりますが、3万円~5万円ほどになりますので決して安くはありません。
しかし、エンジンを破損させてしまう可能性や、ドライバーの身が危険にさらされてしまう可能性があることを考えると、タイミングベルトは早めに交換しておいた方が無難ということがいえるわけです。
最近のクルマはタイミングチェーンが主流になっています
多くのクルマにタイミングベルトが使われていた時代には、10万kmという走行距離には大きな意味があったわけです。
しかし、最近のクルマは、1980年代以前のクルマと同様にタイミングチェーンが使われるようになっています。
タイミングチェーンであれば、金属でできているために耐久性は非常に高く、走行距離が30万kmほどになるまではノーメンテナンスで大丈夫だといわれているからです。
タクシーなどの商用車を除いて、日本国内を走っているクルマの走行距離が30万kmを超えるというのは非常に稀であるため、廃車になるまでほぼメンテナンスが必要ないということがいえます。
1980年代まで主流だったタイミングチェーンが復活することになった理由としては、技術の進歩があります。
タイミングベルトと同じくらい音が静かになり、なおかつ1980年代の頃のタイミングチェーンにくらべて伸びにくくなっています。
つまり、1990年代にタイミングチェーンからタイミングベルトに切り替えた頃のデメリットが、コストの問題以外は解消できるようになったわけです。
そして、耐久性が高いというメリットのことを考えると、タイミングチェーンを採用しない理由はないわけです。
ただ、タイミングチェーンだからといって、必ず30万kmまでメンテナンスが不要になるというわけではありません。
使用しているちに少しずつ伸びてきて、エンジン内部でガチャガチャといった音が発生してくることもあります。
伸びたチェーンがどこかに触って音を発生させているわけです。
そうなったときには、タイミングチェーンであっても交換の時期ということになります。
タイミングチェーンの交換費用は、10万円~20万円と、タイミングベルトにくらべて高額になりますので、クルマの年式によっては廃車を検討することになるかも知れません。
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エンジンの外観からどちらを採用しているか判断することは可能か?
現在のクルマは、基本的にタイミングチェーンが採用されています。
しかし、いま自分が乗っているクルマがタイミングベルトを使っているのか、それともタイミングチェーンを使っているのかというのは、よほどクルマに詳しい人でなければ分からないと思います。
クルマに詳しい人であれば、ボンネットを開けてエンジンをみたときに、シリンダーの先端にタイミングベルト用のカバーがあるかどうかを確認することで判断できます。
そのカバーを外せば、タイミングベルトが現れます。
タイミングチェーンの場合は、オイルに触れていないと劣化してしまいますので、エンジン内部に取り付けられています。
そのため、タイミングベルトのようにカバーを取り外して確認をするということはできません。
オイルを入れる穴から覗き込むと、タイミングチェーンが見えたります。
車種別に年式によってタイミングベルトを使っているかどうかを判断
これから新車を購入する場合であれば、基本的にどのクルマもタイミングチェーンが採用されていると考えていいと思います。
しかし、いま自分が乗っているクルマや、これから中古車を購入する予定の人は、そのクルマがタイミングベルトを採用しているのか、それともタイミングチェーンを採用しているのか気になると思います。
特に、走行距離が10万kmに近づいているクルマの場合は、早急に調べる必要があります。
そこで、主な国産車がタイミングベルトからタイミングチェーンに切り替わったタイミングを一覧にして紹介してみたいと思います。
この一覧を見ると、一部のメーカーや車種を除いて、タイミングベルトを採用しているのはかなり年式の古いクルマであるということがお分かりになると思います。
トヨタ
●アルファード・・・2002年に発売された初代アルファードのうち、3000ccモデルのみがタイミングベルトを採用。初代2400ccモデルと2008年に登場した2代目アルファードはすべてタイミングチェーン。
●ヴェルファイア・・・年式に関係なく2008年の登場以来すべてのヴェルファイアはタイミングチェーンを採用。
●ノア・ヴォクシー・・・年式に関係なくすべてのノアとヴォクシーはタイミングチェーンを採用。
●プリウス・・・1997年の初期型からすべてのプリウスはタイミングチェーンを採用。
●ハリアー・・・初期型の2200ccと3000ccモデルはタイミングベルトを採用。2000年に発売された2400ccモデルと、2006年に登場した3500ccモデルはタイミングチェーンを採用。
●ヴィッツ・・・1999年に登場した初期型以降のすべてのヴィッツはタイミングチェーンを採用。
●クラウン・・・11代目のクラウンはすべてタイミングベルト、2003年にモデルチェンジされた12代目からはタイミングチェーンを採用。
●アクア・・・登場以来すべてのアクアはタイミングチェーンを採用。
ホンダ
●フィット・・・2001年の登場以来すべてのフィットはタイミングチェーンを採用。
●オデッセイ・・・2代目オデッセイまではタイミングベルトを採用。2003年に登場した3代目オデッセイからはタイミングチェーンを採用。
●ステップワゴン・・・初代のステップワゴンはタイミングベルトを採用。2001年に登場した2代目ステップワゴンからはタイミングチェーンを採用。
●ライフ・・・2014年に生産終了となる最終モデルまで、すべてのライフはタイミングベルトを採用。
スバル
●インプレッサ・・・3代目インプレッサまではタイミングベルトを採用し、2011年にモデルチェンジをされた4代目以降はタイミングチェーンを採用。
●レガシィ・・・5代目の2010年までのモデルはタイミングベルトを採用し、それ以降のエンジンの形式がEJ型からFB型にかわったときにタイミングチェーンを採用。4代目でも3000ccモデルはタイミングチェーン。
スズキ
●ワゴンR・・・1998年~2003年にかけて発売された2代目ワゴンRは、タイミングベルトのエンジンとタイミングチェーンのエンジンを採用するモデルが混在。2003年に登場した3代目以降はすべてタイミングチェーン式のエンジンを採用。
●アルト・・・1998年~2004年まで発売された5代目アルトは、タイミングベルトとタイミングチェーンを採用するモデルが混在。2004年にフルモデルチェンジされた6代目アルトからはすべてタイミングチェーン式のエンジンを採用。
ダイハツ
●タント・・・初代のタントはタイミングベルトを採用していましたが、2007年から発売された2代目タントからはタイミングチェーンを採用。
●ムーヴ・・・3代目ムーヴはタイミングベルトとタイミングチェーンを採用しているモデルが混載していましたが、2006年に発売が開始された4代目からはすべてタイミングチェーンを採用。
文・山沢 達也
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