エンジンの冷却水はラジエーターで冷やしても80℃以上の高温なのをご存知ですか?

クルマのエンジンは水冷式であるということは、ほとんどの方がご存知でしょう。

しかし、ラジエーターで冷やされた冷却水の温度がどれくらいになっているのかを知らない人は多いと思います。

「冷却水」というイメージから、冷たい水がエンジンの周りを循環していると思っている人もいるでしょうが、実際にはまったく冷たくありません。

多くのクルマの冷却水は、83℃ほどの温度を維持するように制御されています。

83℃といいますと、「冷却水」というイメージとは程遠く、かなり熱いお湯です。

いったいなぜ冷却水はそんな高温を維持するように設計されているのでしょうか?

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ラジエーターで冷やしても冷却水の温度は3℃程度しか下がりません

エンジンを冷却して戻ってきた水の温度を下げるのがラジエーターの役割です。

先ほども書きましたように、エンジンから戻ってくる冷却水の温度は、通常の状態であれば83℃ほどになっています。

その温度をラジエーターによって下げるわけですが、実際に下がる温度はたった3℃程度です。

つまり、ラジエーターというのは、83℃で返ってきた冷却水を80℃ほどに下げるだけなのです。

イメージ的には20℃~30℃ほど下げるような感じがすると思いますが、実際にはそんなことは不可能です。

冷却水というのは、6リットルから7リットルほど入っていますから、それだけの量のお湯の温度を、瞬間的に20℃~30℃下げることなどできません。

たとえば、大きな鍋のなかに入っている熱いお湯を、強烈な扇風機であおったところで、瞬間的には温度はほとんど下がらないはずです。

つまり、水の温度を一気に下げるというのは、相当のエネルギーを必要とするわけです。

ですから、83℃で戻ってきた冷却水を、ラジエーターを通過する間に3℃程度下げられれば十分ということになるわけです。

冷却水の温度は高すぎても低すぎてもいけません

チリチリに熱くなったエンジンを冷やすわけですから、冷却水の温度はなるべく低い方がいいと考える人もいることでしょう。

しかし、クルマのエンジンというのは冷やせばいいというものではありません。

エンジンは、熱くなりすぎても冷やし過ぎても効率が悪くなってしまうのです。

エンジンの温度を下げ過ぎるとオーバークールになります

最近のクルマは冬にエンジンがかかりにくいということはなくなりましたが、キャブレターを使っていたころのエンジンは、冷え切った状態だとなかなかかからず、バッテリーを上げてしまうこともありました。

このことからも、エンジンが冷たい状態というのが、エンジンにとって良くない状態であるということがお分かりになるかと思います。

また、冷却水によってエンジンを冷やし過ぎることをオーバークールといいますが、エンジンにとっては良くないとされています。

なぜオーバークールがいけないのかといいますと、エンジンが冷えた状態だと内部のピストンとシリンダーのクリアランスが広がった状態になってしまうからです。

つまり、シリンダーとピストンの間にわずかなすき間がある状態でエンジンを回すことになりますので、ピストンの首振り運動が大きくなり、よけいな運動をすることで出力をロスしてしまうことになります。

エンジンの効率が悪くなりますから、当然ながら燃費も悪くなります。

また、そのような状態でエンジンを高回転まで回したりすると、ピストンやシリンダーを摩耗させることになり、故障の原因にもなりかねません。

エンジンの温度をある程度以上にあげてやることによって、膨張によってシリンダーとピストンの隙間が埋められ、ピストンのよけいな首振り運動を防ぐことができるわけです。

冬場は暖機運転をしてから走り出した方がいいとよく言われるのは、こうした理由があるからです。

一般に、冷却水の温度が70℃以下になるとオーバークール状態であるとされています。

つまり、冷却水というのは「かなり熱いお湯」の状態が正常ということになります。

冷却水の温度があがりすぎるとオーバーヒートを起こします

エンジンの温度は低すぎてはいけないわけですが、かといって高ければいいというものではありません。

エンジンの温度が上がりすぎると、こんどはオーバーヒートを起こしてしまいます。

かつては、峠道などでオーバーヒートを起こして、ボンネットからもくもくと白い煙をふきあげているクルマが停車している光景をよく見かけました。

昔のクルマは、いまのクルマほど冷却システムがしっかりとしいなかったために、峠道や渋滞路などでよくオーバーヒートを起こしました。

冷却水の温度が100℃を超えてきたら要注意です

オーバーヒートを起こしてしまうと、最悪の場合はエンジンの焼き付きを起こしてしまいますので注意が必要です。

冷却水の温度が100℃を超えると、オーバーヒートの危険性が高まるといわれていますが、冷却が間に合わなくなったり冷却システムに異常があったりすると、水温は120℃以上にまで上昇してしまいます。

水の温度は100℃以上にはならないと思っている人もいるかと思いますが、それはあくまでも大気圧でのことです。

ラジエーターというのは密閉されていますから、水温の上昇とともに内部の圧力がどんどん上がって行ってしまいます。

圧力が上昇することで水の沸点も上昇しますので、100℃以上の温度になってしまうわけです。

たとえば、圧力鍋を使うと料理が早くできるのは、容器が密閉されていることで水の沸点を100℃以上にあげることができるからです。

エンジンの冷却水も同じ理屈で、100℃以上の温度になることがあるわけです。

圧力の上がり過ぎを防ぐために安全弁が取り付けられています

ただし、どこまでも圧力が上がって行ってしまうと危険なので、圧力鍋には圧を逃がすための安全弁がついています。

実は、クルマのラジエーターにもキャップのところに同様の機能がついており、冷却水がおおむね120℃~130℃を超えるとそこから圧を逃がすような仕組みになっています。

オーバーヒートをしたクルマのボンネットから出ている白い煙は、まさに安全弁から噴き出した水蒸気ということになります。

また、エンジンが暖まっている状態でラジエーターのキャップを開けてはいけないといわれているのは、内部に圧力がかかっていて非常に危険だからです。

オーバーヒートしたクルマのエンジンを冷やそうとして、ついラジエーターに冷たい水を補給してあげたくなりますが、絶対にやってはいけません。

キャップを緩めたとたんに100℃以上の高温になった水蒸気がものすごい勢いで吹き出しますので、大やけどをしてしまう可能性があります。

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オーバークールやオーバーヒートを防ぐための仕組み

冷却水の温度は、83℃付近がベストであり、それより高くても低くても効率が悪くなってしまうわけですが、クルマはどのようにして冷却水の温度を一定に保つように制御しているのでしょうか?

エンジンをかけた直後は冷却水がラジエーターを通らない

オーバークールの問題があるため、冷却水の温度は低すぎてもよくないというお話をさせていただきましたが、エンジンを始動した直後はどうしても冷却水の温度は低いままです。

特に、冬場はなかなか温度があがりません。

そのため、冷却水がある程度の温度になるまでは、ラジエーターを経由しないで、バイパスルートを循環するような仕組みになっています。

暖まっていない冷却水をラジエーターに通してしまうと、温度が上がるまでにどうしても時間がかかってしまうからです。

そして、ある程度の温度まで上昇した時点で、バルブを開いてラジエーターの方に冷却水を循環させるようになっているのです。

停車中やノロノロ運転時に作動する電動ファン

今度は、冷却水の温度が上がり過ぎて、オーバーヒートを起こしてしまう可能性がある場合です。

外気温が非常に高い真夏に渋滞などに巻き込まれたりすると、どうしても冷却水の温度は上昇してしまいます。

渋滞中はそれほどエンジンの回転数を上げないのに、なぜ冷却水の温度が上昇してしまうのか疑問に思う人もいるかも知れません。

渋滞にはまったクルマは、どうしてもノロノロ運転になってしまいますので、ラジエーターを冷やすための走行風が入ってこなくなります。

前方から風が入ってこなければ、ラジエーターは冷却効果を発揮することができませんので、水温はどんどん上昇することになります。

ただし、そういったときのためにクルマには電動式の冷却ファンがついています。

冷却水の温度がある程度以上にあがると、自動的にファンが回りだして、ラジエーターに風を送る仕組みになっています。

エンジンをかけたままクルマを停車しているときに、突然「ブーン」という音が聞こえたりすると思いますが、それがまさに電動ファンが回り出したときの音です。

水温計の指し示している位置と実際の冷却水の温度

渋滞中であっても電動ファンによってラジエーターを冷却することはできますが、やはり走行風にくらべると風の絶対量が少ないために、冷却水の温度はじわじわと上昇していってしまいます。

そのため、真夏の渋滞時にはつねに温度計を気にする必要があるわけですが、多くの市販車の水温計では、実際の冷却水の温度は分かりません。

COOLを意味する「C」の目盛りと、HOTを意味する「H」の目盛りがあって、大雑把な水温が分かるだけになっています。

基本的には、水温計の針が「H」に近づいてくるまではそれほど心配する必要はないのですが、目安としてどれくらいの温度になっているのか気になる人もいると思います。

理想的な冷却水の温度である83℃のときの針の位置は、「C」と「H」の中間よりもやや「C」寄りを指しているのが普通です。

そして、針が中央の位置付近にきたときには、90℃程度になっていると考えていいでしょう。

中央と「H」の中間くらいの位置に針が来ると、冷却水は100℃ほどまで上昇している可能性がありますので、慎重に運転を進める必要があります。

もし近くにコンビニやサービスエリアなどがあれば、そこでエンジンを停止させてクールダウンをするといいでしょう。

ただし、オーバーヒートを起こした原因が単純に渋滞による冷却水の温度上昇ではない場合には、冷却水の不足や故障などの可能性もありますので、JAFなどを呼ぶようにした方がいいでしょう。

文・山沢 達也

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