電気自動車が普及をしていくためには、これからバッテリーがどこまで進化をとげるかにかかっているといっても過言ではないでしょう。
バッテリーにはどうしても劣化の問題があります。
電気自動車で一番気になるのは航続距離ですが、納車されたときをピークにして徐々に短くなっていってしまいます。
バッテリーの劣化が進んでしまった電気自動車の場合、わずか数十キロの距離にある職場までの往復ですら不安になってしまうこともあるようです。
そこで、自動車メーカーも電気自動車のそういったネガティブな部分を解消すべく、新しいバッテリーの開発に取り組んでいるようです。
そんななか、将来的に期待されている代表的なバッテリーが「全個体セラミックスバッテリー」と「リチウム空気バッテリー」です。
具体的にはどのようなバッテリーなのでしょうか?
使えば使うほど劣化していくリチウムイオンバッテリー
現在電気自動車に使われているのは、リチウムイオンバッテリーと呼ばれているものです。
残念ながら、このリチウムイオンバッテリーというのは、使えば使うほどにどんどん劣化をしていき、容量が減ってしまうという性質があるのです。
いま私たちが使っているスマホのバッテリーがまさにリチウムイオンバッテリーです。
スマホのバッテリーの場合は、充電を500回ほど繰り返すと容量が75%ほどになってしまうそうです。
さらに700回ほどになると、容量は60%ほどにまで低下してしまうといわれています。
スマホのバッテリーと大型の電気自動車用バッテリーを単純には比較できませんが、仮に電気自動車をスマホの充電回数に換算すると、毎日充電する人は2年ほどで容量が60%になってしまうことになります。
ただし、リチウムイオンバッテリーの場合には、初期のプリウスなどに搭載されていたニッケル水素バッテリーの欠点であった、メモリー効果の問題はクリアされています。
メモリー効果というのは、バッテリーが放電しきらない状態で充電を繰り返すと、どんどん容量が少なくなっていってしまうというものです。
昔の携帯電話も、バッテリーを最後まで使い切ってから充電をした方がいいといわれていたのを覚えている人も多いことでしょう。
そんなメモリー効果による容量の低下を解決したリチウムイオン電池ですが、やはり繰り返して使うことによる容量の低下はどうすることもできませんでした。
リチウムイオンの次に来るといわれている全個体セラミックスバッテリー
ニッケル水素バッテリーのメモリー効果の問題や大きさの問題をクリアすることができたリチウムイオンバッテリーですが、充電を繰り返すことによる容量の低下はどうしても避けることができません。
そういった問題を解決すべく、さまざまなバッテリー開発が進められていますが、リチウムイオンの次に主流になるだろうといわれているのが、全個体セラミックスバッテリーです。
この全個体セラミックスバッテリーは、トヨタ自動車と東京工業大学が共同で開発を進めており、早ければ2020年には実際のクルマに搭載できる予定だそうです。
この最新のバッテリーは、リチウムイオンバッテリーの2倍ものエネルギーを取り出すことができ、なおかつ1000回の充電を繰り返しても電位が安定するといった特徴があります。
つまり、これまでのリチウムイオンバッテリーにくらべて、航続距離を2倍にのばすことができ、なおかつ古くなっても劣化しにくくなるということです。
このバッテリーが搭載可能になれば、電気自動車の普及はかなり進む可能性があるといえそうです。
2030年以降に実用化を目指すリチウム空気バッテリー
電気自動車の普及が思ったよりも進まない背景には、やはり航続距離の問題があります。
近所の買い物や通勤などに使う分には問題なくても、レジャーなどで長距離を走ることになると、ガソリン車にくらべてどうしても不安になってしまう人が多いと思います。
それでは、実際に電気自動車がいまのガソリン車とくらべて遜色ないレベルの航続距離を得ることができるのはいつごろになるのでしょうか?
全個体セラミックスバッテリーも非常に優れたバッテリーですが、それをはるかにしのぐ性能を持つバッテリーが2030年の実用化をめどに開発されています。
それが、リチウム空気バッテリーと呼ばれるものです。
もしこのリチウム空気バッテリーが実用化されると、電気自動車の航続距離は1000km近くまで伸びるといわれています。
さすがに東京~大阪を往復するのは無理としても、片道ならば途中で充電をせずに余裕でいける航続距離です。
さすがに航続距離がここまで伸びると、電気自動車の普及も一気に進むに違いありません。
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リチウムイオンの15倍の容量を持つリチウム空気バッテリー
リチウム空気バッテリーは、リチウムイオンバッテリーのように正極系にコバルト系やマンガン系の化合物を使用することはありません。
リチウムイオン金属の負極と電解液、正極の空気だけで動作するために非常に効率がよくなるのが特徴です。
「物質・材料研究機構」の研究チームは、リチウムイオンバッテリーの15倍の容量をもつリチウム空気バッテリーの開発に成功しています。
また、正極に使うのは空気だけのため、コストの面でも大きな期待が持てます。
電気自動車の製造原価の中でも、バッテリーの占める割合は非常に高いので、バッテリーの製造コストが下がることになれば、結果的に電気自動車の車両価格も下がる可能性が高くなるわけです。
とはいえ、リチウム空気バッテリーは、充放電両方の化学反応に対応した触媒や電極材料に関して、まだまだ開発途上にあります。
国内外で開発競争が進んでいますが、いま実用化に一番近いといわれているのが、韓国のサムスン電子です。
サムスン電子では、2030年の実用化をめどに開発を急ピッチで進めているようです。
電気自動車が、いまのガソリン車なみの航続距離を得ることができるのは、あと12年~13年後となりそうです。
EVの普及には航続距離だけではなく充電時間の短縮も重要
これから電気自動車が普及していくためには、航続距離ももちろん大切ですが、充電時間の問題も無視できません。
現在のように、急速充電を利用しても30分程度の時間がかかってしまうようだと、どうしても電気自動車の購入に二の足を踏んでしまうという人もいることでしょう。
2030年頃にリチウム空気バッテリーが実用化になれば、電気自動車の航続距離は1000kmほどになるといわれていますが、それでも東京~大阪を充電せずに往復することは難しいでしょう。
どこかで必ず1回は充電しなければならないわけですが、そこで30分待たされるというのは考えものです。
しかし、この充電時間に関しても、近い将来に大幅に短縮化が期待されています。
電気自動車のチャデモ(CHAdeMO)規格と呼ばれる直流型急速充電規格が、2020年までに充電スタンドの充電実効出力を350kwまで引き上げる計画をたてているからです。
もちろん、バッテリー側でも高出力な充電スタンドに対応するための対策を立てなければなりませんが、もしそれが実用可能になると急速充電の時間は5分~10分くらいにまで短縮可能になるといわれています。
充電時間をそこまで短縮することができれば、現在のガソリンスタンドとほぼ同じ感覚で利用できるようになるに違いありません。
参考記事:電気自動車(EV)の充電が5分~10分で可能になる時代がやってくる?
文・山沢 達也
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