宅急便で有名なヤマト運輸が、連結をすると車両全長が25mにもなるフルトレーラーを採用するということで話題になっています。
これまでは、フルトレーラーの全長は21mまででした。
しかし、2016年4月に国土交通省は、フルトレーラーの最大長を25mまでに規制緩和する方針を固めました。
そして、その後の実証実験を経て、いよいよ25mのフルトレーラーが公道を走ることになります。
25mのフルトレーラーとは、いったいどんな車なのでしょうか?
なぜフルトレーラーの全長が緩和されることになったのか?
もともと、フルトレーラーの長さは19mまでと決まっていました。
しかし、2013年には21mまでに規制が緩和させています。
そして、さらに今回の規制緩和で25mまで規制緩和されることになりました。
いったいなぜこれほど短期間の間に、2度の規制緩和によってフルトレーラーの長さが19mから25mまで認められるようになったのでしょうか?
理由はあきらかで、慢性的なドライバー不足の問題を解消するためです。
1人のドライバーが運転するトレーラーのサイズを大きくすることで、1回の輸送によってたくさんの荷物を運ぶことができるようになりますので、ドライバー不足の問題が緩和できる可能性があるわけです。
全長25mのフルトレーラーになると、10tトラック2台分の荷物を1人のドライバーで運搬することができるようになりますので、普通の大型トラックを使う場合にくらべて、ドライバーの数は半分で済むことになります。
そもそもフルトレーラーとはどんな車両なのでしょうか?
フルトレーラーといっても、いまいちピンとこない人もいるかも知れません。
一般にトレーラーと呼ばれている車両には、セミトレーラーとフルトレーラーがあります。
公道上でよく見かけるのは、セミトレーラーの方です。
トラクターと呼ばれる荷台のない専用の車両に、荷物を積むトレーラー部分を連結させて走ります。
セミトレーラーは、トラクター部分も含めた全長が最大で18mとなっていますが、一般的に公道上を走っているのは16.5mタイプになります。
それに対してフルトレーラーというのは、引っ張る側の車両がトラクターではなく、普通の大型トラックのように大きな荷台を持っています。
そして、その荷台のついた大型トラックのような車両に、荷台だけのトレーラー部分を連結させて走るわけです。
セミトレーラーの最大全長が18mなのに対して、フルトレーラーの最大全長は先ほども書きましたようにこれまで21mだったものが、今回の規制緩和によって25mということになるわけです。
25mのフルトレーラーとなりますと、まさに10tトラックが2台つながって走っているように見えます。
もちろん、それだけの全長の長い車両ですから、実際に走行できる道路は限られてきます。
全長が長くなるため、内輪差が大きくなりますので、交差点を曲がるときには対向車線にはみ出さなければならないケースが多くなります。
また、カーブを曲がるときにも、道幅が狭くて急なカーブだと反対車線にはみ出してしまいます。
そのため、日本では基本的に全長12mを超える長さの車両を公道上で走らせるためには、特殊車両通行許可証が必要になります。
大きな車を勝手に走らせて、途中で立ち往生されても困るからです。
そのため、ヤマト運輸でも25mのフルトレーラーは主要都市間をむすぶ高速道路のみを走らせる計画をしているようです。
しかし、道幅が広く急なカーブのない高速道路を走るといっても、全長25mの車両を走らせるとなると、実際に運転をするドライバーにはそれなりのスキルが要求されそうです。
荷物の積み下ろしをするためには方向転換や切り返しなどもする必要があるでしょう。
トレーラーはバックをするのが難しいことで知られていますが、フルトレーラーになるとバックの難易度もさらに高くなります。
そのため、運転をするドライバーの条件として、大型と牽引の免許を取得してから5年経過していることや、運送業に5年以上の従事経験があることなどが求められるようです。
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25mフルトレーラーにはどんなメリットがあるのか?
ヤマト運輸が25mのフルトレーラーを導入することに決めた背景には、もちろんドライバー不足の解消が一番の理由なのは間違いありませんが、それ以外にもさまざまなメリットがあります。
たとえば、大型トラックの後ろにもう一台分の大型トラックの荷台をつけて走るようなものなので、大型トラック1台分の燃料で2台分の荷物を運ぶことができます。
もちろん、同じエンジンで2倍の荷物を積んで走るわけですから、多少は燃費が悪くなると思いますが、大型トラック2台を走らせるのにくらべるとはるかに燃料代は少なくて済みます。
その結果として、排気ガスの量も減るので地球温暖化の防止にも貢献できることになります。
また、ドリー式フルトレーラーを使うことによって、節税にもなります。
日本の公道上を走る車には必ず重量税というものがかかることになります。
しかし、2軸のドリー式フルトレーラー部分には一切重量税はかからないのです。
そのためフルトレーラーを利用することによって、大型トラック2台分の荷物が運べるにもかかわらず、重量税は1台分納税すれば済むということになりますので、大きな節税ができるわけです。
また、他の会社のトレーラーを連結させて、1台の車両として輸送することも可能になります。
たとえば、前の部分の荷台にヤマト運輸の荷物を満載したうえで、別の会社のトレーラーをつなげて走るということも可能になります。
これまで同一区間を各社が各々のトラックを使って輸送していたわけですが、お互いの会社が連携することで輸送効率がアップすることになります。
25mのフルトレーラーを走らせることの問題点
さまざまなメリットのあるフルトレーラーの全長に関する規制緩和ですが、問題点もあります。
トラックドライバーには、過労運転防止のためにある一定時間ごとに休息が必要になります。
しかし、25mのトレーラーを駐車できるような場所を確保するのは、なかなか困難です。
トラックドライバーは、高速道路のパーキングエリアで休息をとることが多いのですが、どこの駐車場もこれまでの最大長であった21mを基準に考えられています。
25mもの長さの車両を運転するドライバーが、休息をとることができずに走り続けるというのは非常に危険であるといえます。
また、そういった大きな車両が公道上を走ることによって、他のドライバーも危険を感じるシーンが増えるに違いありません。
特に追い越しをするときなどは、全長が長いために追い越し完了までの時間が長くなりますので、それだけ危険性が高まることになります。
宅配便60億個時代が到来するといわれています
国土交通省が、これほど短期間の間に次々とフルトレーラーに関する規制を緩和してきた背景には、Amazonや楽天などの通販事業者による荷物の爆発的な増加があります。
このままでは運送業界がパンクしかねない状況を、深刻に受け止めているからに他なりません。
20年前に15億個程度だった宅配便の荷物の量は、2016年には38億個を超えています。
少子化の影響によって、20年間で生産年齢人口は約1000万人も減っていると言われています。
生産年齢人口がそれだけ減っているにもかかわらず、宅配便の量は2.5倍にまで増えてしまっているのです。
そして、近い将来に宅配便の荷物の量は60億個に達すると言われています。
また、日本の貨物輸送の9割はトラックで行われていますが、トラックドライバーの4割は50歳以上だと言われています。
そういった状況を冷静に考えた場合、近い将来に深刻なドライバー不足になることは容易に想像ができるわけです。
頭の固いお役所である国土交通省が、これほど短期間に何度も規制緩和をするからには、それなりの深刻な事情があるからなのです。
文・山沢 達也
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