1980年代後半~1990年代頭にかけて、全国に当たり屋グループが出没して、多くの被害者を出していると噂になったことがありました。
プロの当たり屋グループの車両に巧みに交通事故を仕掛けられ、多額の賠償金を要求されるというものです。
当時、当たり屋とみられるグループのナンバーや車種名が書かれた一覧表が、よく職場などに回ってきたものです。
本当にそんな当たり屋グループは存在したのでしょうか?
また、現在も当たり屋と呼ばれる人たちは、実際に存在するのでしょうか?
職場に回ってきた当たり屋グループのナンバーが書かれた文書
若い人は知らないかも知れませんが、いまから25年~30年ほど前に、職場に当たり屋に注意をするようにという喚起をうながす文書がよくまわってきました。
そこには、当たり屋グループとみられるクルマのナンバーや車種名がずらりと一覧になって書かれていました。
書かれていたナンバーは「大阪、なにわ、山口」といった、いかにも暴力団を連想させるような地域のものでした。
そして、その文書にはナンバーや車種名の一覧とともに次のような注意書きが書かれていました。
●下記ナンバー車と接触事故を起こした場合は、その場で示談せずに直ちに警察に連絡すること
●警察が到着する前に、自分の勤務先や氏名、電話番号は絶対に言わないこと
●このコピーを車内に備えておくこと
●友人、知人に知らせること
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文書に書かれていた当たり屋グループの巧妙な手口
職場に回ってきた文書には、当たり屋グループの手口についても具体的に書かれていることがありました。
当たり屋グループは2台1組でターゲットとするクルマを前と後ろでサンドイッチ状にして、後ろのクルマがターゲットとするクルマに対して車間距離を詰めたりパッシングをしたりしてあおります。
ターゲットのクルマがあわててアクセルを踏み込むタイミングを見計らって、前を走っているクルマがサイドブレーキを使って減速をするというものです。
サイドブレーキの場合はブレーキランプが点灯しませんので、ターゲットのクルマは前のクルマが減速したことに気がつくのが遅れて追突をしてしまうわけです。
道路交通法上、追突したほうのクルマが圧倒的に悪くなってしまいますので、その弱みにつけこんで多額の賠償金を要求してくるという手口です。
また、道をゆずるふりをして、ターゲットのクルマが追い越して通り過ぎようとすると、急発進してクルマをぶつけるという手口が書かれていることもありました。
あまりにもリアルな手口が紹介されているために、本当にそういった当たり屋グループが実在していると信じている人も少なくなかったと思います。
しかし、これらの当たり屋グループ情報のほとんどはデマあり、そのようなグループは実際には存在しなかったといわれています。
文書には実在しないクルマのナンバーが書かれていた?
そういった当たり屋グループに関する情報に掲載されていたクルマのナンバーは、実際には存在しないクルマのナンバーが多かったといわれています。
たとえば、ナンバープレートというのは4桁のものが一般的ですが、1桁~3桁のものも存在します。
そういった桁数の少ないナンバープレートの場合、数字の代わりに「・」を使います。
3桁だと「・3-45」、2桁だと「・・-45」といった感じになります。
ところが、当たり屋グループのナンバーとして紹介されていた3桁のナンバーには、「03-45」といたったように、「・」の代わりに「0」が使われているものがありました。
これは、あきらかに実在しないナンバーということになります。
また、車種名が乗用車であるのに、「5ナンバー」や「3ナンバー」ではなく、貨物車を表す「6ナンバー」が書かれているものもあったようです。
実際に、こういった当たり屋グループとして紹介されていたナンバープレートを警察で調べてみた結果、これらの情報のほとんどがただのデマやウワサであることが分かっています。
すでに廃車になってしまった車のナンバーであったり、書かれているナンバーと車種名が一致しなかったりというケースがほとんどだったようです。
どこからか発せられたデマやウワサが、企業や役所などを巻き込んで全国に広がってしまったのでしょう。
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当たり屋と呼ばれる人が存在するのは事実です
1980年代後半~1990年代前半にかえて、全国に広まった当たり屋グループの噂は、ほぼデマであったことが判明していますが、かといって当たり屋と呼ばれる職業(?)の人が存在しないわけではありません。
実際に当たり屋は存在しますし、彼らの巧妙な手口によって被害にあう人も少なくないのです。
それでは、当たり屋がドライバーからお金を巻き上げる手口にはどういったものがあるのかを紹介してみたいと思います。
・壊れたスマホを使った最新の巧妙な手口
最近多くなっている当たり屋の手口は、スマホを使ったものです。
狭い路地などに入り込んでくるクルマのサイドミラーに軽く腕をぶつけて、手に持っていたスマホを落とすというものです。
そして「クルマがぶつかってスマホのガラスが割れてしまったから弁償しろ」と言いがかりをつけてくるわけです。
もちろんスマホは最初からガラスが割れているものを用意しています。
特に、女性のドライバーが狙われることが多いようで、いわれるままにお金を渡してしまうことが多いようです。
このスマホを使った当たり屋の巧妙なところは、要求する金額が数千円~1万円程度と少ないことです。
大抵の人が財布のなかに入っている金額ですし、警察に連絡されて人身事故扱いされるよりは、むしろお金を渡してしまった方がいいと思わせる程度の金額なわけです。
・タクシーを専門にねらった当たり屋もいます
東京都内で、タクシーばかりを専門に狙っていた22歳の当たり屋が逮捕されたとのニュースが流れたことがあります。
板橋区や豊島区などで20件ほどの犯行を繰り返し、総額で50万円以上の示談金を脅し取っていたようです。
怪我をしない程度の軽い接触をして、大げさに痛がるふりをして示談金をせしめる手口です。
タクシードライバーというのは、人身事故を起こしたことで免停などになってしまうと商売ができなくなってしまいます。
そのため、数万円のお金で済むならと思って、示談に応じてしまう人が多いのでしょう。
まさに、人の弱みにつけこんだ悪質な手口といえます。
コンビニで買い物を終えたクルマをねらう手口
プロの当たり屋とはいっても、普通に前進して走っているクルマにぶつかるのは危険を伴います。
そこで、狭い路地などクルマのスピードがあまり出ていない場所をターゲットにすることが多いのですが、最近よくターゲットにされるのがコンビニです。
コンビニの駐車場に止める車の多くは、前向きにとめています。
そのため、買い物をしたあとはいったんバックで方向転換をしてから、道路に戻る必要があるわけです。
クルマがバックで方向転換をしているときというのは、それほどスピードが出ていませんから、当たり屋も安全に仕事ができる(?)ことになります。
最近はドライブレコーダーを設置しているクルマが多いですが、設置しているのはほとんど前方だけで、後方には設置していないことが多いものです。
つまり、この点もコンビニの駐車場からバックで出て来るクルマが狙われる原因になっているわけです。
自分からクルマにぶつかっていったシーンがドライブレコーダーに撮影されてしまうと、「当たり屋に狙われた」として警察に通報されてしまう可能性がありますから、バックで進んでいるクルマをねらった方が彼らにとっては安全なわけです。
あとは先ほどのスマホの当たり屋と手口はほぼ同じで、時計やメガネなどを落下させてその修理代金を要求するというものです。
この場合も、ドライバーが今すぐ払える数千円程度の要求をしてくるケースがほとんどです。
文・山沢 達也
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