最近は、自動ブレーキシステムの搭載をアピールするクルマが増えてきました。
自動ブレーキシステムが有効に作動するということであれば、居眠り運転やわき見運転といった人間のミスによる衝突の危険を大幅に低減できることになります。
また、瞬時の判断能力に衰えの見えてきた高齢者などが運転をする場合には、自動ブレーキシステムは心強い存在となるに違いありません。
しかし、それと同時に自動ブレーキの誤作動による危険性も指摘されているのです。
各メーカーによって異なる自動ブレーキの性能や仕組み
車の自動ブレーキといっても、実は各メーカーによって、それぞれ仕組みや性能が異なります。
実際に各メーカーによって、どういった部分が異なるのかについて、トヨタとスバルのシステムを取り上げて比較をしてみましょう。
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・トヨタのプリクラッシュセーフティシステム
トヨタの自動ブレーキシステムは、プリクラッシュセーフティシステムと呼ばれています。
トヨタのシステムの場合「ミリ波レーダー」と「単眼カメラ」を併用して、前方の危険を検出する方式で、先行車だけではなく、歩行者まで検知して衝突を回避するシステムになっています。
ホンダの自動ブレーキシステムなども、この「ミリ波レーダー」と「単眼カメラ」の組み合わせになっています。
プリクラッシュセーフティシステムの動作は、3段階のステップで働くようになっています。
最初のステップとして、衝突の危険があるときにブザーやディスプレイによって警報が発せられます。
次のステップとして、ドライバーがブレーキを踏んだときの強さをアシストするシステムが作動します。
日頃の運転で急ブレーキなどをかけるという機会は滅多にありませんので、いざというときにブレーキを踏み込む力が不足して本来の制動力が発揮できない可能性があります。
そこで、自動ブレーキシステムがクルマのスピードや対象物までの距離を計算して、最大限の制動力を得られるようにアシストしてくれるわけです。
最後のステップとして、何らかの理由でドライバーがブレーキを踏めなかったときに、自動でブレーキがかかるようになっています。
自動でブレーキが作動するときのクルマの速度は、歩行者が対象の場合には10km/h~80km/h、車両が対象の場合には10km/h~最高速となっています。
2017年4月現在、トヨタのクルマでプリクラッシュセーフティシステムを採用しているのは「プリウス」「クラウン」「マークX」「ランドクルーザー」「C-HR」などとなっています。
プリクラッシュセーフティシステムの詳細:https://toyota.jp/anzen_anshin/tss/p/pcs/
・スバルのプリクラッシュブレーキ
トヨタの自動ブレーキシステムは、ミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせて衝突の危険を検出していましたが、スバルのプリクラッシュブレーキの場合には、アイサイトと呼ばれるステレオカメラを利用しています。
人間の目が物をみるとき同じように、左右二つのカメラで道路の状況を立体的に把握できるようになっています。
自動ブレーキが作動するステップは、トヨタの場合と同様に3段階になっています。
実際このアイサイトを使ったスバルのプリクラッシュブレーキは、さまざまなところで行われている実験でも優秀な結果を残しています。
「ミリ波レーダー」と「単眼カメラ」の組み合わせによる自動ブレーキシステムの場合、対象になるのは主に車両と人間ですが、スバルのアイサイトを使ったシステムの場合には、バイクや自転車なども検出することができるようです。
ただ、このステレオカメラタイプにもデメリットがまったくないわけではありません。
ミリ波レーダーを使わずにカメラだけに頼っているために、悪天候のときや逆光のときなどに対象物を検出しにくくなる傾向があるようです。
このアイサイトを使ったスバルのプリクラッシュブレーキですが、スバルが独自に算出したデータによると、同社のこの装備を搭載していないクルマと比較した場合、事故の発生件数が61%も減っているそうです。
このことからも、スバルの自動ブレーキシステムがいかに事故回避に有効かということがお分かりになるかと思います。
それと同時に、ドライバーが普段いかに前方不注意状態で運転しているかということが、この数字からお分かりになるかと思います。
アイサイトの詳細:https://www.subaru.jp/levorg/levorg/safety/eyesight.html
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誤動作による危険があることも知っておくべき
前方不注意による事故を大幅に減らすことが期待できる自動ブレーキシステムですが、実は誤作動が起こるという可能性も否定できないのです。
実際に、自動ブレーキシステムが誤作動を起こしたという事例も、ネット上などで少なからず報告されています。
・自動ブレーキが誤動作を起こした例
隣の車線を走っていた大型トラックにシステムが反応して、突然強めのブレーキがかかってしまったというケースがあります。
この場合は、隣を走っているトラックにレーダー波が乱反射したことによって、システムが「割り込み」と誤判断して、ブレーキを動作させてしまったのでしょう。
また、トンネルの入り口付近で照明に照らされた雪に反応して、急ブレーキがかかってしまったというケースもあります。
高速道路を走行中に、誤作動で勝手に急ブレーキがかかってしまったりすると、後続車がいた場合には非常に危険なことになります。
また、踏切の先頭で一時停止をしたあと、なぜか自動ブレーキが作動してしまって、クルマが動かなくなってしまったというケースもあるようです。
踏切の手前ですからとりあえず危険はありませんが、踏切の途中で自動ブレーキによって車が停車してしまったりすると、パニックになってしまうことでしょう。
・自動ブレーキはある意味では諸刃の剣
2013年には、トヨタ自動車が、自動ブレーキシステムの不具合により急ブレーキがかかる恐れがあるとして、2万台をリコールしたことがありました。
このように、ヒューマンエラーによる事故の発生を減らすことが期待できる自動ブレーキシステムではありますが、逆に装置そのもののエラーによって車が危険にさらされる可能性もあるわけです。
便利な装置ではありますが、ある意味では諸刃の剣てきな部分があることも否定はできません。
国土交通省は、この自動ブレーキの搭載義務化を検討しているようですが、まずはこの誤動作の問題を完全にクリアすることが先決だと思われます。
車間距離を詰めて走るドライバーは注意
自動ブレーキシステムを搭載したクルマが普及をしてくると、これまでの運転方法を見直す必要が出てくるかも知れません。
特に、日頃から車間距離を詰めて走る癖のある人は要注意です。
多くのドライバーは、前方を走るクルマの動きだけではなく、信号などの他の情報をもとにブレーキングの動作をすることになります。
たとえば、見通しの良い直線道路で、前方に見える信号が青信号だった場合、自分の前を走るクルマが急ブレーキを踏むことなど予想する人はいないと思います。
しかし、自動ブレーキシステムを搭載したクルマが普及をしてくると、そういったことが実際に起こらないとは限らないわけです。
もしそういった車に追突をしてしまった場合、基本的には後ろを走っていたクルマが悪いことになってしまいます。
追突の場合の過失割合は「100:0」~「70:30」で、追突をした方の過失割合が圧倒的に高くなってしまうのです。
また、大型トラックなどが、前方を走るクルマに対して極端に車間距離をつめて煽ったりしているのをときどき見かけることがあります。
もしこんな時に前方を走るクルマの自動ブレーキが誤作動をしたらと思うとゾッとします。
一歩間違えば死亡事故につながる可能性が非常に高いといえます。
これから自動ブレーキを搭載した車が普及してくることをふまえて、すべてのドライバーはこれまでの自分の運転を見直す必要があります。
そうしないと、取り返しのつかない事故を起こしてしまう可能性あります。
とにかく、車間距離だけには十分に気をつけて走りたいものですね。
文・山沢 達也
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