電気自動車には、ガソリン車にはないさまざまなメリットがあります。
静粛性の高さや、低速トルクの高さか来る加速性能の良さなどです。
しかし、そんな電気自動車があまり普及していない背景には、メリット以上のデメリットがあるからです。
一番のデメリットは、ガソリンスタンドに代わる充電設備の少なさからくる長距離走行への不安です。
遠出をするときには、充電スタンドのある場所をしっかりと頭に入れたうえで、計画的な走行をしなくてはなりません。
また、充電スタンドを利用するときの時間もネックになります。
急速充電であっても満足のいく充電量を得るためには30分ほどかかってしまいますし、先に利用している人がいれば、順番待ちでしばらく並んでいなければなりません。
そういった電気自動車のデメリットの部分を失くして、メリットの部分だけを残そうと考えた結果として登場したのが、日産のノートe-POWERというクルマです。
エンジンを搭載しているので、カテゴリー的にハイブリッドカーになるのかも知れませんが、これまでのハイブリッドカーとはまったく仕組みの異なるクルマになっています。
むしろ電気自動車と呼んだ方がイメージ的には近くなるのが、ノートe-POWERといえます。
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エンジンはバッテリーを充電するためだけに使用される
これまでのハイブリッドカーというのは、エンジンの効率が悪くなる発進時や低速走行時などにモーターの力を借りて、効率化を図るという仕組みになっていました。
そのため、ハイブリッドカーを走らせるためのメインの動力はあくまでもエンジンであり、モーターというのは補助的な意味合いのものにすぎませんでした。
参考記事:サルでも分かるハイブリッド車の燃費がよくなる仕組み
しかし、日産から登場したノートe-POWERというクルマは、モーターとエンジンの両方を搭載している点はこれまでのハイブリッドカーと同じですが、仕組みはまったく異なります。
ノートe-POWERは、走行のためにエンジンの力を借りるということはまったくなく、低速から高速まですべてモーターだけの力で走ります。
エンジンは、あくまでもバッテリーを充電するためだけに存在するのです。
日産にはリーフという電気自動車がありますが、このリーフに充電用のエンジンを積んだ車がノートe-POWERだと思ってもらえれば分かりやすいかと思います。
参考記事:電気自動車である日産リーフとガソリン車のランニングコストの差は?
そのため、実質的には電気自動車であるにもかかわらず、バッテリーの残量を気にせずに、普通のガソリン車と同じような感覚で遠出ができてしまうことになります。
トヨタのアクアなみの低燃費を実現
電気自動車のメリットを生かしつつ、長距離走行時に不安があるという電気自動車のデメリットを解消することに成功したノートe-POWERですが、実際の燃費などはガソリン車や他のハイブリッドカーとくらべてどうなのでしょうか?
メーカー発表のJC08モード燃費を見てみますと、37.2km/L~34.0km/Lとなっています。
これはハイブリッドカーであるトヨタのアクアと、ほぼ同レベルの低燃費を達成していることになります。
エンジンから得られるエネルギーを一度電気に変換してモーターを駆動させているにもかかわらず、エンジンで直接クルマを走らせる場合にくらべて燃費が良くなるというのは、普通に考えると不思議です。
エネルギーというのは、さまざまな形に変換するたびにロスが発生するからです。
一般的なガソリン車が「エンジンの回転力→タイヤ」という流れでダイレクトにエネルギーを伝えるのに対して、ノートe-POWERは「エンジンの回転力→電気→モーターの回転力→タイヤ」といった形でエネルギー変換をしています。
エンジンの動力を一度電気に変換している時点で損失が生じているはずなのに、それでもガソリン車にくらべて圧倒的に低燃費を実現していることになります。
いったいなぜでしょうか?
ガソリンエンジンは低速走行時の効率が悪い
ガソリンエンジンを動力としてそのまま使う場合、スタート時や低速走行時のエネルギー効率は想像以上に悪くなります。
もともとガソリンエンジンが動力として伝えることのエネルギーは、ガソリンを燃焼させたときに発生するエネルギーの30%程度になってしまうといわれています。
クルマのエンジンをかけると、冷却水で冷やさなければならないほど発熱することからも分かりますように、もともとガソリンが持つエネルギーの多くは、熱の形でどんどん放出してしまうわけです。
つまり、ガソリンを燃やしたエネルギーの70%は、熱として捨ててしまっているのです。
低速走行をしているときのエンジンの効率はさらに下がり、ガソリンの燃焼によって発生するエネルギーの、わずか15%程度しか動力として使われなくなってしまいます。
それに対して、モーターというのは非常にエネルギーの変換効率がよく、電気エネルギーの90%以上が動力エネルギーに変換されるといわれています。
そのため、エンジンを一番効率の良い状態で回して充電をしておき、その電気エネルギーを使ってモーターで走らせることによって、スタート時や低速走行時に発生するエネルギーの無駄をなくしているわけです。
ガソリンでエンジンを動かしているにもかからず、一般のガソリン車にくらべてノートe-POWERの燃費が良くなるのは、モーターのエネルギー変換効率のよさをうまく利用しているからということになります。
また、他のハイブリッド車と同様に、クルマを減速させるときにはモーターを発電機として利用する回生ブレーキの仕組みがあることも、燃費のよさに大きく貢献をしていることは間違いありません。
モーターの特性を生かした力強い加速性能が特徴
ガソリンエンジンというのは、低回転で回っているときには、あまり力が出ません。
エンジンの回転をあげれば上げるほど、トルク(回転力)が強くなるという特徴があります。
それに対して、直流モーターというのは低回転であってもつねに最大トルクを発揮するという、フラットなトルク特性があるのです。
そのため、モーターだけを動力源としてつかうノートe-POWERは、スタート時の力強さがガソリンエンジンのクルマとは異質といえるほどです。
ノートe-POWER の最大トルクは254Nmとなっており、これはガソリン車であれば、2,500ccなみの力強さということになります。
しかも、2,500ccのガソリンエンジンであれば、5000rpm以上の高回転にしないと最大トルクを得ることは出来ませんが、ノートe-POWERの場合には、ごく低回転であっても、254Nmという強烈な最大トルクが発生していることになるのです。
さらに、2,500ccクラスのセダンの車重が1,500kg程度あるのに対して、ノートe-POWER の車重はわずか1,200kgほどしかありません。
ちょうど1,500ccである日産のキューブが、これくらいの車重になります。
つまり、ノートe-POWERは1,500ccのクルマなみの軽量ボディーに、2,500ccなみの力強さを発揮するモーターを動力源としている
わけです。
このスペックを見ただけでも、発進時や追い越し時に力強く小気味のいい加速感が得られるということは、容易に想像がつくと思います。
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ノートe-POWER のデメリットとは?
このように、電気自動車のいいところを生かしつつ、長距離ドライブにおけるバッテリー切れの心配を失くしたノートe-POWERですが、もちろんメリットだけではなくデメリットもあります。
それは、同クラスのクルマと比較した場合、車両価格が高めに設定されているという点です。
中間グレードである「X」の場合で、1,959,120円という価格設定になっています。
2,500ccなみの力強さを持つモーターを装備しているとはいえ、もともとは1200ccのエンジンを積む日産ノートがベースのクルマです。
1,200ccクラスの車格であるにもかかわらず車両本体価格が200万円近いということになると、かなりの割高感があると思います。
e-POWERではない普通のノートの場合、標準的なグレードである「X」の車両価格が1,495,800円となっていますから、およそ50万円高い設定になっているわけです。
普通のガソリン車では味わうことのできない低速からの力強い異次元の加速感とハイブリッド車なみの燃費の良さに、プラス50万円を支払うことができるかどうかは、その人の価値観の違いによって判断が分かれることでしょう。
日産のノートe-POWERの公式サイト
https://www2.nissan.co.jp/NOTE/
文・山沢 達也
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