タクシーの9割がプロパンガスで走っているのはなぜ?

黒色のタクシー世の中にはこれほどたくさんのタクシーが走っているのに、ガソリンスタンドでタクシーを見かけることがほとんどないことを不思議に思ったことはありませんか?

実は、タクシーをガソリンスタンドで見かけないのは、そもそも燃料にガソリンを使用していないからです。

タクシーも、私たちが個人的に所有しているマイカーと同様に、レシプロエンジンで動いていることは間違いないのですが、そのエンジンの燃料として使われているのは、プロパンガスなのです。

そうです、あのガスコンロに使うプロパンガス(LPG)です。

いったいなぜタクシーは、ガソリンではなくプロパンガスを使って走っているのでしょうか?

また、プロパンガスを積んだまま走っていて、事故を起こしたときに爆発などの危険性はないのでしょうか?

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タクシーがプロパンガス(LPG)を使う理由

個人タクシーなどはガソリン車を使っていることも多いようですが、一般のタクシーの場合は一部のハイブリッド車を省いて、ほとんどがプロパンガスを使用して走っています。

プロパンガスを使用して走るクルマを、ガソリン車に対してプロパン車などと呼んだりすることもあります。

なぜタクシーはガソリンではなくプロパンガスを利用して走っているのでしょうか?

・ガソリンとくらべて燃料費が圧倒的に安い

タクシーがプロパンガスを使っている一番の理由は、ズバリ燃料費が安く済むということです。

2019年8月現在、レギュラーガソリンの平均価格は1リットルあたり130円ほどになっています。

それに対してプロパン車に使うオートガスは、1リットルあたりの価格が85円前後です。

都市部のタクシーは1年で10万kmも走るといわれていますので、1リットル当たりの価格がこれだけ違うと、プロパンガスとガソリンでは年間の燃料費に大きな差が生じることになります。

・プロパンガスの車であれば盗難防止になる?

プロパンガスを燃料として使うことのメリットに、車が盗まれにくいという点があげられます。

クルマ泥棒にしてみれば、一般のガソリンスタンドで給油することのできない車を盗んでも仕方がないということになります。

また、タクシーというのは、私たちが普段乗っている乗用車とは、明らかに使い勝手が違います。

ドアミラーの代わりに今では貴重なフェンダーミラーが取り付けられていますし、ハンドルの脇にシフトレバーがついているコラムシフトのマニュアル仕様となります。

もともとタクシーというのは、泥棒にとってはあまりうまみのないクルマといえるわけです。

関連記事:ドアミラーがあたり前の時代になぜタクシーだけフェンダーミラーなのか?

・二酸化炭素の排出量が少なく環境にやさしい

黄緑色の地球と車型にくり抜いた葉
プロパンガスを使って走る車の特徴として、排気ガスがクリーンで環境にやさしいという点があげられます。

もっともこれは、タクシー会社が地球環境を意識してプロパンガスを使っているというよりも、結果としてそういうことになってしまっているといった方が正解です。

なぜなら、地球の環境問題がクローズアップされるずっと以前から、タクシーはプロパンガスで走っていたわけですから。

ちなみに、ガソリンの二酸化炭素の排出量を100とした場合、プロパンガスの排出量は85ほどにおさまります。

地球の温暖化防止にタクシーが一役買っているということになります。

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なぜタクシー以外のクルマはLPガスを使わないのか?

燃料代が安くて、しかも環境にやさしいということになれば、なぜタクシー以外のクルマはプロパンガスを燃料として使わないのか不思議に思う人もいることでしょう。

しかし、プロパン車がマイカーとして普及しないのには、それなりの理由があるのです。

プロパンガスを充填できるスタンドの数が圧倒的に少ない

まず、一番の理由としてはあげられるのが、プロパンガスを充填できるスタンドが、非常に少ないという点です。

実際にタクシーがプロパンガスで走っているわけですから、対応しているスタンドは探せばどこかにあるはずなのですが、ガソリン車のようにいつでもどこでも給油できるような状況ではありません。

たとえば、東京都内にはガソリンスタンドが1000ヵ所ほどあるといわれていますが、それに対してLPGを充填できるオートガススタンドはわずか50数か所しかありません。

ちょっと遠出をしたときに、ガススタンドを見つけることができなくてガス欠になってしまったら、シャレになりませんね。

ガスボンベのメンテナンス費用が発生する

プロパン車には、高圧のガスボンベが積まれています。

万が一このガスボンベが劣化してガス漏れなどを起こしては大変ですので、定期的にメンテナンスをする必要があります。

この、ガスボンベなどの定期的なメンテナンスをするための費用が発生するという点も、プロパン車のデメリットの1つといえます。

タクシーのように年間に10万kmも走るのであれば、燃料費の節約分でタンクのメンテナンス費用などは十分にペイできますが、年間にせいぜい1万km程度しか走らない一般的なマイカーの場合には、割に合わなくなる可能性があります。

プロパン車はガソリン車にくらべてパワー不足

もう1点、プロパンガスの車がガソリン車に劣る点として、パワー不足があげられます。

タクシーの代表的な車種であるクラウンコンフォートですが、2008年7月までのモデルは、2000ccのOHVエンジンで、最高出力はわずか79psでした。

2008年8月からの新しいモデルには2000ccのDOHCエンジンが搭載されるようになりましたが、それでも最高出力は116psです。

最新のガソリン車であれば、2000ccで150ps程度のパワーがありますから、それにくらべるとだいぶ見劣りしてしまいます。

パワー不足とはいっても、日常的に車を走らせる分にはそれほど不便を感じることはないはずですが、やはり車の動力性能というのはメーカーにとっては重要なアピールポイントになります。

そこを犠牲にするというのは販売戦略的にも厳しいのかも知れません。

ボンベを設置することでトランクルームが狭くなる

プロパンガスを使用するクルマは、丸くて大きなガスボンベを設置する必要があります。

このガスボンベのおかげで、どうしてもトランクルームが狭くなってしまいます。

「ガソリン車だってガソリンタンクがあるでしょう?」

そんなふうに思う人がいるかも知れませんが、最近のクルマのガソリンタンクというのは、平べったい形にしてフロアー下などの邪魔になら場所に設置されています。

ホンダ車などは、運転席の真下にガソリンタンクを設置しているモデルがあったりします。

ガソリンというのは、プロパンガスのようにタンク内が高圧になるということがありませんので、比較的自由な形状のタンクを設置することができるのです。

ところが、プロパンガスというのは気化しやすく、タンク内に高い圧力がかかりますので、形状的にはどうしても丸い形になってしまいます。

大型のガス貯蔵タンクが球形であることからもお分かりのように、丸い形というのは内圧に対して強い形だからです。

しかし、内圧には強くても、円筒形のタンクというのはどうしても設置場所が限られてしまいます。

そのため、結果としてトランクルームが犠牲になってしまうのです。

タクシーのトランクに荷物を積む機会があったら、ぜひ確認してみてください。

一般的なガソリン車のトランクルームにくらべて奥行きがなく、かなり狭い印象を受けるはずです。

プロパンガスが爆発する危険はないのでしょうか?

公道を走る黄色のタクシーこれまでの説明で、タクシーがプロパンガスを燃料として使うのにはさまざまなメリットがあることがお分かりになったかと思いますが、そもそもプロパンガスを積んだ車を走らせて危険はないのだろうか、という疑問を持つ方も少なくないと思います。

一般の人は、タクシーにプロパンガスのボンベが積まれているということを知りません。

しかも、お客さんが座る後部座席のすぐ後ろに問題のガスボンベはあるわけです。

もしそのことを知っていたら、タクシーに乗ることを躊躇してしまう人もいるかも知れません。

一般的にはどうしても「プロパンガス=爆発しやすい」というイメージがありますので、もし後ろから追突でもされたらと思うと、ゾッとするに違いありません。

しかし、車に取り付けられているガスボンベは衝撃に耐えるように強化されたものが取り付けられていますし、そもそもプロパンガスはそう簡単に爆発するものではありません。

もしタクシーが追突事故を起こして爆発を起こしたりしたら大ニュースになるはずですが、そんなニュースを耳にしたことのあるとはまずいないはずです。

プロパンガスは気化しなければ爆発はしない

ガスというのは、空気とある一定の割合に混ざり合ったときに爆発します

ガス爆発というのは、なんらかの理由で漏れたガスが空気と混ざり合って、ある一定の濃度になっている状態のときに着火をすることで起こるわけです。

ですから、空気と混ざり合うことのないボンベの中のプロパンガスが、衝撃などを受けることによって突然爆発をするということは基本的にありえません。

ガスボンベは爆弾ではないので、当然のことです。

また、仮に何らかの理由で車が燃えるような状況になったとしても、ガス爆発を起こす可能性は非常に低いといえます。

実際に住宅火災などでも、家が全焼するような大火災であっても、屋外に設置してあるプロパンガスによって爆発が起こることは滅多にありません。

ガスボンベというのは、高温になって内圧が高まると、爆発を防ぐために安全弁が開いてガスを放出するようになっています。

その放出したガスに引火をして燃え続けることによって、タンク内のガスの量は徐々に減っていきます。

安全弁から漏れたガスに引火をしていても、消防隊はあえてその火を消さないで燃えたままにしておきます。

安全弁から漏れているガスの火を消してしまうと、未燃焼のプロパンガスがどんどんたまっていってしまい、やがて爆発を起こす可能性が高くなるからです。

爆発力だけで考えればプロパンガスよりもガソリンの方が高い

意外に思うかも知れませんが、単純に爆発力だけを比較した場合プロパンガスよりもガソリンの方が高いのです。

LPG車よりもガソリン車の方がハイパワーなのは、ガソリンの方がプロパンガスにくらべて爆発力が高いからです。

爆発力が高ければ、ピストンを押し下げる力が強く働きますから、パワーがでるのは当然です。

爆発力の高いガソリンよりもプロパンガスの方が危険なイメージがあるのは、気化しやすいからです。

気化しやすく、漏れたガスに着火をすると爆発する可能性があるので、プロパンガスというのは危険であるといわれているわけです。

もちろん、ガソリンも気化した状態で着火をすれば爆発を起こすことがあります。

セルフのガソリンスタンドなどでおなじみの静電気除去シートは、気化したガソリンに静電気の火花で着火するのを防止するために設置されているわけです。

特に静電気が発生しやすい冬場は、面倒くさいなどと思わずに、しっかりと静電気除去シートに触れてから給油を開始したほうが身のためです。

ハイブリッド車の登場でプロパンガスのメリットはなくなってきた?

タクシーがプロパンガスを使っている一番の理由は燃料費が安くなるという点にあります。

しかし、最近のガソリン車の燃費の良さを考えた場合、プロパンガス車のメリットを感じにくくなっているということがいえそうです。

実際に、クラウンコンフォートではなくハイブリッド車であるプリウスをタクシー車両として使っている会社も増えています。

ガソリンが1リットルあたり130円前後であるのに対して、LPGだと1リットルあたり85円ほどですから、1リットルあたりの単価だけを考えたらプロパン車の方がローコストのような感じがします。

しかし、燃費で考えると、ガソリンを使用するハイブリッド車の圧勝となります。

クラウンコンフォートの10・15モード燃焼が9.8km/Lなのに対して、最新型のプリウスのJC08モード燃費は37.2km/Lとなっています。

カタログデータと実際に走行したときの燃費は異なりますが、あくまでもこのデータを見る限りにおいては、クラウンコンフォートよりもプリウスの方が1リットルあたり3倍以上の距離を走りそうです。

そうなると、ガソリンよりもプロパンガスの値段が安いことを差し引いても、トータルの燃料代はプリウスの方が圧倒的に少なくて済みそうです。

これだと、プロパン車をタクシー車両として使う意味があまりなくなってしまいます。

そんな時代の流れを反映してか、ついにタクシー用車両にもハイブリッド車が登場することになります。

それが、トヨタから2017年10月に発売が開始された「JPN TAXI」です。

「JPN TAXI」は、クラウンコンフォートの後継車として登場したクルマになります。

この「JPN TAXI」登場した翌年の2018年2月に、クラウンコンフォートは発売中止となり、長年のタクシー専用車としての役目を終えることになりました。

「JPN TAXI」のJC08モード燃費は19.4㎞/Lとなっており、他のハイブリッド車とくらべるとあまり燃費がよくないような感じがしますが、それでもクラウンコンフォートとくらべると約2倍の距離を走れることになります。

プロパンガスの1リットルあたり85円前後という値段と、JC08モード燃費は19.4㎞/Lの組み合わせはタクシー会社にとっては大きな魅力であるに違いありません。

近い将来、街中のタクシーはこれまでのクラウンコンフォートから「JPN TAXI」に変わってしまうことでしょう。

文・山沢 達也

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