2018年9月16日に、僧衣でクルマの運転をしていた僧侶が、福井県警に違反切符を切られたことがマスコミで話題になりました。
違反切符を切られた理由は「運転に支障のある和服で運転していたこと」だそうです。
違反切符を切られた僧侶には、反則金6000円が科せられることになりますが、僧侶は納得が行かずにキップにサインをすることを拒みました。
全国の僧侶からも、僧衣で運転ができなくなると業務に支障がでてしまうと一斉に反発があり、世間の注目が一気に高まりました。
その後、福井県警は、あまりの反響の大きさにあわてたのか、「違反事実が確認できなかった」として、僧侶に対する違反切符を取り消しとしました。
そもそも、運転に支障のある服装とはどういった服装なのでしょうか?
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福井県警の警察官はなぜ僧侶に対して違反切符を切ったのか?
福井県警が、僧衣を着たお坊さんを取り締まった根拠は、「袖がシフトレバーにひっかかる可能性がある」「裾の幅が狭いために足を動かしにくくブレーキ操作が遅れる」といったものです。
しかし、こうした理由に対して摘発された僧侶は「警官は窓越しに声をかけてきただけで、私の足元などは確認できていないはず」と反論しています。
つまり、現場の警察官は、「運転操作に支障があるに違いない」という思い込みだけで違反切符を切ってしまったということです。
確かに、運転に支障のある服装でクルマに乗ることは、福井県の道交法施行細則にもとづいて違反行為となるようです。
ところが、運転に支障のある服装と判断する明確な基準がなく、違反かどうかの判断は現場の警察官にまかされているというのが実情です。
福井県警の道路交通法施行詳細には「下駄、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両を運転しないこと」と書かれているのみです。
「運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服」といっても、実際に履物や衣服が運転に支障を及ぼすかどうかは、人によって判断基準が変わってしまうはずです。
そういった理由もあってか、運転中の服装が原因で摘発された事例は非常に少なく、福井県で過去に数件あるだけで、他の県では摘発例は確認されていないようです。
同じ服装で運転していても摘発される県とされない県がある?
交通違反の決まりごとは、全国共通だと多くの人が思っていることでしょう。
スピード違反や駐車違反をすれば、全国どこでも同じように摘発されます。
ところが、運転中の服装に関する規則については全国一律ではないのです。
つまり、運転中の服装に関して罰則規定がある都道府県というのは限られているのです。
2019年の時点で、運転中の服装規則があるのは、青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島、栃木、茨城、群馬、静岡、愛知、福井、滋賀、三重、岡山の15県のみです。
たとえば、同じような服装で運転をしていたとしても、千葉県内だと大丈夫なのに、利根川を越えて茨城県に入ったとたんに摘発される可能性があるということになります。
同じようにクルマを運転していても、住んでいる地域によって違反になったりならなかったりするわけですから、摘発の対象になった人にしてみれば、なんとも理不尽な思いをするに違いありません。
ただし、15の県で服装規則があるとはいっても、過去に摘発事例があるのは福井県だけで、その他の県では先ほども書きましたように摘発事例は確認されていません。
そういった点を考えてみますと、今回の僧侶の摘発も、現場の警察官の判断というよりも、福井県警の方針が反映された結果といえそうです。
服装に関する明確な基準がないのはドライバーとしては困る
日本国内で同じように運転免許を取得して、同じような服装で運転をしているにもかかわらず、走る地域によって違反になったりならなかったりというのは困りますが、違反の明確な基準がないというのもそれ以上に困った問題です。
福井県警は摘発した僧侶に対して、「証拠不十分で違反を認定できない」として違反を取り消しにしたうえで「ご心労をおかけしました」と謝罪をしています。
しかし、僧侶が謝罪にきた警察官に対して「今後は、僧衣での運転はどうなるのか?」と質問をしても、明確な答えは返ってこなかったそうです。
実際に、福井県では昨年に僧衣の男性が2名、和服の女性が2名摘発されていますので、「僧衣を着て運転しても問題ない」とはっきり明言してしまうと、過去に摘発した人に対して示しがつかなくなってしまうのでしょう。
先にも書きましたように、福井県の道路交通法施行細則は「下駄、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両を運転しないこと」といったアバウトなものです。
それに対して、岩手県の道路交通法施行細則だと「衣服の袖、裾等によって運転の障害となるような和服等を着用して運転することを禁止」と、より具体的に書かれています。
福井県警の警察官も、違反切符を切った理由として「袖がシフトレバーにひっかかる可能性がある」「裾の幅が狭いために足を動かしにくくブレーキ操作が遅れる」ということを主張していましたので、岩手県の細則に書かれている内容を福井県の細則でも含んでいると考えられます。
これらのことから、和服を着てクルマの運転をすることは違反になる可能性があるということは分かりますが、僧侶の違反が取り消しになったように、和服が必ずしもダメということではないわけです。
基準が曖昧なのは、本当に困ります。
われわれドライバーとしては、なんとか取り締まりの基準を明確にしてもらいたいものですね。
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僧衣は動きにくくないことをアピールする僧侶たち
福井県警による僧侶の摘発が話題になったことにより、「僧衣は運転に支障をきたすほど動きにくくない」ということを動画でアピールする僧侶たちが現れました。
僧衣を着たまま縄跳びをしたり、見事なデビルステッキの演技を披露したり、バク宙をしたりするお坊さんが現れました。
こういったお坊さんたちのパフォーマンス動画を福井県警の方が見たかどうかは分かりませんが、皮肉なことにこういった動画が海外で反響を呼ぶことになったようです。
ただ、僧衣にもいろいろな種類がありますし、動きやすいということと、袖口などがシフトレバーなどに引っかかりやすいということは別問題です。
こうした動きやすさをアピールする動画は、あくまでもパフォーマンスとして考えた方がよさそうです。
ちなみに、福井県警に摘発された僧侶が着ていた僧衣は、布袍(ふほう)と呼ばれる袖があまりないタイプのものだったようですが、成人式に女性が着る振袖などだと、本当に運転に支障をきたす可能性はあります。
運転しやすいかしにくいかは、クルマに乗る自分自身が一番よく分かるはずなので、少しでも危険を感じたり違和感をおぼえたりするようなら、その服装での運転をはやめるべきでしょう。
今回の福井県警による摘発の一番の問題は、実際に運転しにくいかどうかを確認せずに、窓越しに僧衣を着ているのを確認しただけで「運転に支障をきたす服装」と判断してしまったことにあります。
僧衣を着てクルマで葬儀や法事に向かうことの多い僧侶にとって、「僧衣=違反」という認識ができてしまったら、業務に多大な支障をきたします。
全国のお坊さんが今回の摘発に対して、一斉に怒りをあらわにしたのも当然といえば当然のことです。
追記:福井県では県道路交通法施行細則から服装に関する規定を削除し、2019年4月4日から新規定で運用を開始しました。
服装に関する規定を削除した理由は、「禁止対象がわかりにくい」からだそうです。
文:山沢 達也
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