電気自動車を普及させるにあたって最大の障壁となっているのが、充電時間の長さではないでしょうか。
ガソリン車であれば、燃料を満タンにするまでの時間はせいぜい5分程度です。
しかし、日本で一番売れている電気自動車である日産リーフのバッテリーを80%まで充電させるための時間は、30分ほどかかってしまいます。
もし今のままの状態で電気自動車がどんどん普及をしていってしまったら、どこのEVスタンドも長蛇の列ができてしまう可能性があります。
そして、やっと自分の順番がまわってきたと思ったら、そこからまた30分待たなければならないわけです。
よほど暇な人でもない限り、電気自動車を充電するためだけにそんな時間を費やすわけには行きません。
赤信号は90秒までしか待てないといわれるせっかちな中国人などには、絶対に待てない時間でしょう。
しかし、近い将来に電気自動車の充電時間が5分~10分程度に短縮できるようになるかも知れないのです。
それはいったい、どういったシステムによって可能になるのでしょうか?
2017年3月にチャデモ規格の仕様が変更になりました
電気自動車のチャデモ(CHAdeMO)規格と呼ばれる直流型急速充電規格は、これまで最大電圧が500Vで最大電流が125Aとなっていました。
そのため、これまでに設置されている急速充電設備の実行充電出力は50kwとなっています。
日産リーフのバッテリーを80%まで充電させるのに30分もかかっていたのは、この50kwという出力の制限があったからです。
しかし、2017年3月にチャデモ規格の仕様が変わり、実行充電出力が大幅にアップされることになりました。
最大電圧はこれまでと同じ500Vですが、最大電流が125Aから400Aに大幅アップになっています。
それに伴い、実行充電出力が150kwのハイパワーな急速充電スタンドを製品化することが可能になったわけです。
単純に実行充電出力が50kwから150kwに3倍になるわけですから、もしそのスタンドが実用化になれば、これまで30分かかっていたリーフの充電時間は10分で済むことになります。
ちなみに、チャデモ協議会では2020年までに、実行充電出力を350kwまで引き上げる計画を立てているそうです。
もしそれが実現すれば、リーフを80%充電するのに5分もかからず、現在のガソリンスタンドの給油時間とほとんど変わらなくなります。
現在の技術ではバッテリー側での受け入れが難しい
実効出力を150kwに向上させた急速充電スタンドさえ設置すれば、リーフの充電時間が10分に短縮されるのかといいますと、決してそんなことはありません。
電気というのは、そんなに単純にはいかないのです。
なぜなら、現在の技術では電池容量の2.5倍までの充電電流しか受け入れることができないからです。
9月に発売になった新型リーフの電池容量は40kw/hですから、その2.5倍というと100kw/hということになります。
ちなみに、アメリカのテスラという電気自動車メーカーのクルマであれば、最大で100kw/hのバッテリーを搭載していますから、実効出力が150kwの充電スタンドであっても十分に対応が可能になりそうです。
実効出力の向上に伴う最大電圧の問題や大電流による熱の問題
2020年にチャデモ規格が実効出力350kwまで引き上げられることになった場合、それを実用化させるためにはバッテリー容量以外にもさまざまな問題が発生することになります。
実効出力を350kwとするためには、現在500Vとなっている最大電圧を900V~1000Vまで上げる必要が出てきます。
しかし、電圧が900V~1000Vとなった高出力の充電スタンドに充電をしに来るEVが、すべてその電圧に対応しているとは限りません。
多くのEVは、これまでの規格である最大500Vまでしか対応していないはずです。
そのため、実効出力350kwの急速充電スタンドを設置するにあたっては、電圧を500V以下にさげるための装置が必要になります。
また、実効出力が大きくなるに伴い、大電流が流れることになりますので、ケーブルやコネクターの発熱対策が必要になります。
チャデモ協議会では発熱対策として、ケーブルを液体によって冷却するシステムを考えているようですが、はたしてその技術が2020年までに間に合うのかどうかは不透明です。
国内メーカーによる充電時間短縮や航続距離アップの取り組み
電気自動車に力を入れている国内メーカーも、EVの充電時間を短縮させる問題に積極的に取り組んでいるようです。
日産自動車と三菱自動車、そして日産と提携しているフランスのルノーの三社は、EVの充電時間や航続距離に関して2022年までの中期計画を発表しています。
フル充電状態で走ることのできる距離を600kmまで伸ばすことと合わせて、15分の急速充電で走ることのできる距離を2016年時点の90kmから230kmまでにする目標を掲げています。
もしこれが実現できれば、バッテリー切れによって電気自動車が立ち往生してしまう不安は、大幅に減ることになるでしょう。
バッテリー切れの不安が緩和されたり、充電時間の短縮が進んだりすることになれば、電気自動車の人気に拍車がかかることは容易に想像ができます。
理想は、現在のガソリン車なみの航続距離と、ガソリン給油時間なみの充電時間を実現することだと思います。
いずれにしましても、これらの目標をクリアするためには、電池性能の大幅向上が必須になってきます。
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バッテリーの劣化対策も必要になってきます
充電時間を短縮させるということは、大電流を一気にバッテリーに流しこむことになるわけですから、当然のことながらバッテリーの劣化が心配になってくるところです。
バッテリー劣化により航続距離の著しい低下の問題から、旧型リーフの中古車価格が暴落しているという現実があります。
参考記事:日産リーフの中古車価格が暴落している理由~近所の買い物にしか使えない?
大電流が一気に流れ込むと、バッテリーは発熱により高温状態になってしまいます。
バッテリーが高温となることで、劣化が進んで寿命が短くなってしまうことになります。
その対策として、チャデモ規格ではクルマのバッテリー温度を監視しつつ出力の上昇を制御しています。
ですから、チャデモ規格の急速充電スタンドで充電をする分には、バッテリーの劣化が早まるという心配はないのですが、出力を制御しなければならない分だけ、充電時間は長くなってしまうことになります。
バッテリーの劣化を早めることなく、なおかつ充電時間を短くできる技術の確立が求められるところです。
EV全盛の時代になっても急速充電スタンドの数はそれほど増えない?
いま公道上を走っているクルマが、すべて電気自動車になってしまう時代がくるとしたら、現在のガソリンスタンドと同じだけ急速充電スタンドの数も必要になると思いがちですが、そんなことはありません。
なぜなら、電気自動車というのは家庭用の電源でも充電が可能だからです。
一部の営業車などを除けは、普通の人が1日にクルマで走る距離はたかが知れています。
地方では通勤にクルマを使うことが多いですが、そういった用途の場合1日あたりせいぜい往復で20km~40kmくらいしか走らないことになります。
このくらいの距離しか走らないのであれば、その日に消費した分を家庭用電源で夜間に充電すれば十分に間に合ってしまうからです。
そうなりますと、急速充電スタンドを利用する機会というのは、レジャーなどで長距離を走るときに限られることになります。
この点が、必ずガソリンスタンドに行かなければならない現在のガソリン車とは大きく異なる点です。
ですから、将来電気自動車が中心の社会になってたとしても、充電スタンドの数そのものはそれほど増えない可能性があるわけです。
文・山沢 達也
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