スウェーデンの自動車メーカーであるボルボが、2019年以降に販売するクルマをすべて電動車両にするとの発表をしました。
その後、フランスとイギリス政府が、エンジンがついた車の販売を2040年に禁止するとの宣言をしました。
しかし、そのようなことが実際に可能なのでしょうか?
2020年のガソリン車とディーゼル車のシェアー予想は82%となっています。
その後わずか20年で、すべてのエンジン付き車両の販売をすべてやめるというのです。
常識的に考えたら、実現化は難しいように感じます。
2016年のドイツ連邦政府による決議が発端となりました
クルマのオール電動化の流れの発端になったのは、ドイツです。
2016年にドイツ連邦政府において、2030年までにエンジン車の販売禁止を求める決議が可決することになりました。
なぜこのようなことになったのかといいますと、アメリカのトランプ大統領が離脱をして一躍注目をあびた「パリ協定」の問題があるからです。
このパリ協定においては、2030年までに温室効果ガスの排出を、2013年度の時点と比較して26%削減しなければならないという厳しい条件が盛り込まれています。
もちろん、ドイツの連邦政府の決議には法的な拘束力はなく、あくまでも欧州連合へのエンジン付き車両の販売禁止をお願いするといったものです。
しかし、このことがきっかけとなって、欧州諸国がEV化の流れに大きく傾いたのは間違いのないところです。
その流れで、フランスやイギリスが2040年までにエンジン付きのクルマの販売を禁止するという宣言につながっていったわけです。
日本国内のEV化はどのような流れになっていくのか?
こうした欧州における急ピッチなEV化宣言の流れを受けて、日本国内では今後どういった流れになっていくのでしょうか?
2017年の8月の上旬にトヨタとマツダが資本提携を発表しましたが、このときに両社で量産型EVのプラットホーム開発を進めて行くことについて言及しています。
ただ、これは欧州のEV化の流れを受けてというよりも、中国やアメリカの市場を見据えての対策だと思われます。
中国では、2018年~2019年にかけて、NEV法(ニューエネルギーヴィークル規制法)を施行する予定になっています。
このNEV法は、アメリカカリフォルニア州のZEV法(ゼロミッションヴィークル規制法)をもとにして、アメリカ政府系の研究機関が共同で開発をすすめたもので、EV車や燃料電池車などの販売台数をメーカーに義務付けるというものです。
このように、いまのところ日本国内では大きな動きはみられていませんが、政府は2018年7月に2050年までに世界で売る日本車すべてを電気自動車にするという方針を打ち出しています。
EV化の急速な流れの発端となったドイツは実際には消極的?
2030年までにエンジン車の販売禁止を求める決議が連邦政府によって可決されたドイツですが、フランスやイギリス政府による、2040年までにエンジン付き車両の販売禁止宣言には多少の戸惑いもあるようです。
なぜなら、ドイツという国は国民の10人に1人がクルマ関連の仕事にかかわっているといわれているからです。
もし、エンジン付きのクルマの販売が禁止されてしまって、すべてのクルマがEVになってしまったら、60万人の失業者が生まれるといわれています。
また、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを発明したのはドイツ人ですから、それが完全に姿を消してしまうということに彼らは抵抗を感じているのかも知れません。
2030年のパリ協定のことが頭にあったとはいえ、2016年にEV化の発端となった連邦政府の決議を可決した国が、他国の過剰な反応を受けてトーンダウンしてしまったわけですね。
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EV化に向けて障害となるさまざまな問題は解決できるか?
世界的にはEV化の流れが進みつつあるわけですが、メーカーが販売するクルマをすべて電気自動車にするには、越えなければいけないさまざまなハードルがあります。
エンジンのクルマにくらべて航続距離が短いという問題や、給油をする時間にくらべて充電に要する時間が大幅にかかってしまうという問題です。
そもそも、2040年までにどれだけの充電スタンドを設置できるのかという問題もありますし、多くのガソリンスタンドは廃業を余儀なくされる可能性もあるわけです。
それらの問題について具体的に考えてみましょう。
・ガソリンで走るクルマのように航続距離を伸ばすことは可能か?
最近のクルマは燃費が非常に良くなっていますので、タンクを満タンにすれば500km程度は普通に走れてしまうクルマが多くなっています。
ところが、電気自動車の場合はせいぜいその半分程度の航続距離しかなく、しかもバッテリーが古くなるにつれて、その航続距離がどんどん短くなっていってしまうという困った問題があります。
リーフの中古車が大暴落している背景には、年式が古くなるにつれて航続距離が極端に短くなってしまうことが問題視されているからです。
参考記事:日産リーフの中古車価格が暴落している理由~近所の買い物にしか使えない?
現在のようにリチウムイオン電池を使うことを前提に航続距離を500kmまで伸ばそうとすると、バッテリーのサイズがかなり大きくなってしまい、クルマそのものの価格もかなり高価なものになってしまいます。
現在、トヨタ自動車が開発を進めている「全固形電池」であればそれが可能だといわれていますが、実用化できるのは2022年頃だといわれています。
・急速に充電が可能になる新しい充電方法は実用化されるのか?
電気自動車が長距離走行に向かないのは、航続距離が短いという問題だけではありません。
いざバッテリーの残量が少なくなってしまったときに充電をしようと思っても、その待機時間がガソリンを給油する時間にくらべて圧倒的に長くなってしまうという問題があります。
ある程度の充電量を確保するためには、急速充電のスタンドを利用しても30分程度かかってしまいます。
まだ現在は電気自動車そのものがそれほど普及しておりませんので、充電スタンドが大渋滞となることはありませんが、もし将来も現在と同じ充電スタンドを利用するとなると、そういった問題をクリアするのは困難ということになります。
しかし、その点に関してはあまり悲観する必要はないかも知れません。
なぜなら、10分程度の時間で400kmほど走行できるだけの充電が可能になる技術が、5年後くらいには実現できるといわれているからです。
ユニークな方法としては、道路に充電パッドを設置して、走行中にワイヤレスで充電できるシステムなども考えられているようですが、実用化をするのは容易ではないと思われます。
・ガソリンスタンドが必要なくなってしまうという問題
近年は、ガソリンスタンドの数が激減しています。
1994年には6万件以上あったガソリンスタンドの数が、2015年の時点ではほぼ半分の3万2千件ほどにまで減ってしまっています。
2014年末の時点で、ガソリンスタンドが1件もないという市区町村が11ヵ所もあり、3ヵ所以下の市区町村は283ヵ所にも達しています。
その理由にはさまざまなものがあると思われますが、ハイブリッド車などの燃費のいい車が普及してきたことも少なからず影響をしていると思われます。
もしこのままEVが普及をしていくと、ガソリンスタンドの倒産に拍車がかかることになり、多くのガソリン車のユーザーが給油難民化していく可能性が出てきます。
仮に、日本がヨーロッパ諸国に合わせて2040年までにエンジン付きのクルマの販売をやめたとしても、それまで販売されていたエンジン付きのクルマはまだ公道を走っているわけです。
今のままでは、そういったクルマの給油をどうするのかという切実な問題が、確実に発生することになってしまうでしょう。
既存のガソリンスタンドが、EVのための充電スタンドを設置しつつガソリンの販売も続けるなど対策を取る必要が当然でてきそうです。
もちろん、そういった対策をする場合には、既存のガソリンスタンドが高価な充電器を設置するための費用を、国が補助するなどのフォローをしっかりしないとスムーズにはいかないと思います。
はたして、2040年にはクルマを取り巻く環境はどのように変化しているのでしょうか?
文・山沢 達也
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