執行猶予中の人が交通違反で罰金刑になると刑務所行きになってしまうのか?

おちょこの中に入る赤い車とパトカー何らかの犯罪によって有罪となった場合でも、それが初犯であった場合などには執行猶予がつくことがあります。

執行猶予というのは、その期間に新たな犯罪行為が行われなければ、刑務所に収監はされないというものです。

たとえば、懲役1年執行猶予2年という判決の場合、「本当なら刑務所で1年服役しなければならないが、2年間新たな罪を犯さなければ今回の罪での収監は勘弁してあげます」というものになります。

そこで気になるのが、交通違反を犯した場合です。

交通違反を犯した場合に、軽微な違反の場合には反則金を納めるだけなので犯罪扱いにはなりませんが、いわゆる赤キップの場合には罰金刑や懲役刑が科されるために、立派な犯罪ということになります。

もし、過去に窃盗などで懲役1年執行猶予2年などの判決を受けた人が、執行猶予期間中に飲酒運転やスピード違反などによって罰金刑を受けた場合には、執行猶予が取り消されて刑務所に入らなければならなくなるのでしょうか?

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「必要的取り消し」と「裁量的取り消し」の2種類があります

刑法の26条によると、執行猶予の取り消しには「必要的取り消し」と「裁量的取り消し」の2種類があることになっています。

これらの2つの執行猶予取り消しには、どういった違いがあるのでしょうか?

・必要的取り消しは禁固以上の罪を犯した場合が対象

まず、必要的取り消しですが、これは執行猶予期間中に「禁固以上の刑」に処せられて、なおかつその刑について執行猶予の言い渡しがないときが該当することになります。

ですから、他の犯罪により執行猶予期間中の人が交通違反で赤キップを切られたとしても、それが罰金刑で済んだ場合には「必要的取り消し」にはならないということになります。

逆に、悪質な交通違反や人身事故を起こして、執行猶予のつかない懲役刑を受けることになった場合は、執行猶予が取り消されることになります。

たとえば、窃盗によって懲役1年執行猶予2年の判決を受けている人が、執行猶予期間中に重大な交通違反や人身事故を起こして執行猶予のつかない懲役1年の判決受けた場合には、窃盗の分と合わせて合計で2年間刑務所に入ることになるわけです。

執行猶予期間中に人身事故や無免許運転、飲酒運転などの懲役刑となる可能性がある悪質な交通違反を犯した場合には、過去に犯した罪の執行猶予が取り消されてしまうこともあるということを覚えておくといいでしょう。

・罰金刑でも適用されることのある裁量的取り消し

裁判官イラストもう一つの「裁量的取り消し」ですが、こちらは罰金刑を受けた場合であっても執行猶予が取り消されることがあります。

ただし、執行猶予期間中に罰金刑を受けた場合であっても、それが別の犯罪によるものであれば、基本的には執行猶予が取り消しになることはありません。

つまり、窃盗の罪で執行猶予期間中の人が、交通違反によって罰金刑を受けたとしても、執行猶予が取り消されて収監されることはないといえます。

ただし、そういった犯罪を何度も繰り返した場合には、執行猶予が取り消される可能性があります。

「規範意識の欠如がはなはだしいようなので、猶予を取り消すか」と裁判所に判断されることもあるからです。

「必要的取り消し」の場合には、禁固以上の罪を犯した場合という明確な基準がありますが、「裁量的取り消し」の場合には、たとえ交通違反などによる罰金刑であっても、裁判官の「裁量」によって執行猶予を取り消すことができるわけです。

交通違反の罰金くらいで執行猶予が取り消されることはないだろうと安易に考えていると、刑務所行きとなってしまう可能性もゼロではないわけです。

刑務所に入りたくないのであれば、執行猶予の期間中は、くれぐれも安全運転を心がけるべきだといえます。

スピード違反で執行猶予がつかない実刑となる基準は?

たとえ交通違反であっても、執行猶予のつかない実刑判決を受けてしまうと、以前犯した罪の執行猶予も「必要取り消し」によって取り消されてしまうということを先ほど説明をさせていただきました。

それでは、スピード違反で検挙された場合、どれくらいの速度超過だと執行猶予のつかない懲役刑となってしまうのでしょうか?

過去の判例を見る限りでは、50km/h~60km/hオーバー程度のスピード違反の場合には、ほぼ罰金刑で済んでいるようです。

ところが、80km/hオーバー前後のスピード違反で検挙された場合には、執行猶予のつかない実刑判決を受けることもあるようです。

80km/hオーバーといいますと、法定速度が60km/hの一般道で140km/h以上、法定速度が100km/hの高速道路で180km/h以上のスピードを出していたということですから、まさに狂気の沙汰ともいえる猛スピードです。

よほど頭のイカレテいる人以外は、ここまでのスピード違反をすることはないと思われますので、スピード違反で執行猶予のつかない実刑判決を受けることはまずないと考えていいでしょう。

飲酒運転で実刑判決となってしまうケース

飲酒運転スピード違反の場合は、まともな精神の持ち主であれば実刑判決を受けるほどの速度オーバーをすることはまずありませんが、飲酒運転の場合はどうでしょうか?

飲酒運転は、交通違反のなかでも最も悪質性の高いものであると考えられています。

そのため、罰則も非常に重いもので、酒気帯び運転の場合で「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、酒酔い運転で「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となっています。

実際の判決においては、酒気帯び運転や酒酔い運転で懲役刑の判決が出たとしても、執行猶予がつくことが多いようです。

ただし、それはあくまでも初犯の場合で、過去10年以内に酒気帯び運転や酒酔い運転の前科がある人の場合は、遵法意識が薄いと判断されて、執行猶予のつかない実刑判決となる可能性が高くなるといえます。

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人身事故で執行猶予のつかない判決が出るケース

日頃から安全運転に心がけているつもりの人でも、ちょっとした不注意で人身事故を起こしてしまうということはあります。

そして、人身事故を起こしてしまった場合にも、交通違反と同様に罰則が待ち構えていることになります。

しかし、交通事故によって人身事故を起こしてしまったとしても、よほど悪質性の高いものでない限り、罰金刑で済んでしまうことが多いようです。

人身事故を起こしてしまった場合は「業務上過失致死傷罪」が適用されることになりますが、実際に業務上過失致死傷罪によって執行猶予のつかない実刑判決を受けるのは、0.1%程度だといわれています。

人身事故の90%以上は罰金刑として処理されており、かりに懲役刑や禁固刑を受けたとしても、執行猶予がつく可能性が高いといえます。

ただし、飲酒運転による人身事故や常識の範囲外での猛スピードによって人身事故を起こしてしまった場合には「業務上過失致死罪」ではなく、「危険運転致死傷罪」が適用されることになります。

この場合の量刑は「業務上過失致死罪」とはくらべものにならないほど重いものになります。

実際に、執行猶予のつかない懲役10年以上の実刑になることも少なくないようです。

もし、何かの罪を犯して執行猶予中の人が「危険運転致死傷罪」で検挙された場合、執行猶予が「必要的取り消し」となって、以前に犯した罪の分も合わせて服役することになる可能性が高いということがいえます。

「危険運転致死傷罪」の場合、ほとんどの場合で実刑となるようですが、情状酌量の余地がある場合には、執行猶予付きの判決がでることもあるようです。

いずれにしましても、過去の何らかの罪を犯して執行猶予付きの判決を受けた人は、執行猶予の期限が切れるまでの間は、慎重にクルマを運転する必要があるといえるでしょう。

文・山沢 達也

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