交通違反で検挙されたときには、反則金や罰金を支払うことになります。
反則金の場合は最高で4万円ですから、なんとか生活をやりくりすれば支払うことも可能でしょう。
しかし、罰金となるとその金額もかなりインパクトのあるものになります。
たとえば、酒気帯び運転の場合には3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっていますし、酒酔い運転だと5年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。
ここまで高額な罰金になりますと、生活をやりくりしてなんとか支払うというレベルの金額ではありません。
罰金は分割払いが認められていませんから、一般の人の場合は定期預金を解約しなければ払えないレベルです。
しかし、定期預金を解約して払うことができる人はまだいいとして、どう逆立ちしても支払うことができない人の場合はどうなるのでしょうか?
実は、そのような場合には罰金を支払う代わりに、自由を拘束されることで罪を償う方法がとられることになります。
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交通違反の罰金をずっと払わないでいると逮捕される?
交通違反をしたときの罰金をずっと払わないでいると逮捕される、などという噂を耳にしたことがある人もいるかも知れません。
本当に交通違反の罰金を払わないでいると逮捕されてしまうのでしょうか?
結論から先にいえば、その噂は真っ赤なウソということになります。
そもそも逮捕というのは、被疑者に対して行われるものです。
被疑者というのはまだ刑が確定していない人のことで、逃亡の恐れがあることなどの理由で逮捕されることになるわけです。
ところが、裁判所から罰金を支払うよう命令された人というのは、被疑者ではなくすでに刑が確定している人ということになるわけです。
被疑者ではないということになれば、逮捕をすることはできないわけです。
それなら、ずっと罰金を払わずに放置していればいいのかといいますと、そんなことは決してありません。
法治国家である日本はそんなに甘くはないのです。
逮捕はされませんが身柄は拘束されることになります
交通違反の罰金を払わなくても、すでに刑が確定してしまっているため逮捕をされることはありませんが、検察庁は「勾引(こういん)」という形で、身柄を拘束することになります。
そして、労務場に留置されることになるのです。
留置される期間は、1日あたり5,000円で換算されます。
10万円の罰金を払わなかった人は20日間、30万円の罰金を払わなかった人は60日間の留置ということになります。
この計算でいくと、酒酔い運転で罰金100万円を言い渡された人が支払いを拒否した場合、労務場に200日間も留置されることになるわけです。
ちなみに、労務場というのは刑務所でありません。
しかし、労務場専用の建物があるわけではなく、拘置所や刑務所の一角を利用して留置されることになるようです。
そのため、扱いはほとんど囚人と同じになるようですので、罰金を払うことのできない人は、それなりの覚悟を決める必要があります。
ただし、労務場は拘置所や刑務所とは完全に切り離されたブロックに設置されていますので、懲役刑を受けたリアルな囚人(怖いお兄さん?)たちと接触するということはありません。
もちろん、労務場で留置の対象になるのは、交通違反の罰金刑を受けた人だけが対象ではなく、あらゆる犯罪の罰金刑を受けた人が対象になりますから、なかには怖いお兄さんも混じっている可能性はあります。
労務場での作業そのものは軽作業となります
「罰金を払わないと刑務所で強制労働をさせられる」などと適当なことを言う人がときどきいます。
そもそも労務場は刑務所ではないので、根本的に認識が間違っているのですが、実際に行われる作業も「強制労働」などというほど過酷なものではありません。
大抵の場合は封筒貼りのような室内で行う軽作業で、土日祝日は完全に休みとなりますので、想像以上に快適といえるかもしれません。
しかも、休日で作業しない日の分も1日あたり5,000円で換算されますから、ある意味では非常に良心的であるといえなくもありません。
実際、「お金がなくてどうしても罰金が払えないんです」といって、みずから洗面用具を持って検察庁に出頭してくる人もいるそうなので、事情を知っている人にとっては、それほど悲壮感はないのかも知れません。
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屈辱的なカンカン踊りに耐える必要があります
土日は休みで作業も室内の軽作業ということになれば、経済的に罰金の支払いが厳しい人のなかには、労務場にお世話になった方がむしろいいのではないかと考える人がいてもおかしくありません。
しかし、労務場といっても、基本的に囚人と同じ扱いをされることを忘れてはいけません。
囚人と同じ扱いをされるなかで、もっとも耐え難いのは「カンカン踊り」と呼ばれるものです。
刑務官の前で全裸になり、両手をあげて手のひらと手の甲を交互に見せ、そのあと片足ずつあげて足の裏も見せます。
最後に口を開いて中を見せたあと舌を出します。
刑務官に「ヨシ!」といわれるまでこれをやらされるわけです。
手をあげたり足をあげたりするので、囚人たちの間で「カンカン踊り」と呼ばれているわけです。
なぜこのようなことをするのかといえば、凶器などを隠し持っていないかをチェックするためです。
これをやらされると、大抵の人はプライドがずたずたに傷つきますし、自分が囚人扱いされていることをしみじみと感じるに違いありません。
「カンカン踊り」をしたくないのであれば、なんとかお金を工面して罰金を支払う以外にありません。
労務場に来る人は交通違反を犯した人が一番多い
2015年度に罰金を払えなくて労務場留置処分を受けた人の人数は、4,799人となっています。
2010年度は7,882人いましたから、徐々に件数は減少傾向にあるようです。
労務場というのは、あくまでも罰金を払うことのできない人が行く場所なので、労務場留置処分の件数が減っているということは、罰金を払うことのできる人が増えているという見方もできるわけです。
そういった意味では、2010年当時にくらべて、景気はやや回復しているのかも知れません。
労務場留置処分になる人は、やはり交通違反で罰金刑となった人が多いようです。
労務場留置になる人の1件あたりの罰金額の平均は30万円ほどだそうなので、飲酒運転がらみが多いのかも知れません。
酒気帯び運転の場合「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっていますが、初犯の場合には30万円~40万円の罰金刑となることが多いようです。
50万円というのはあくまでもマックスの金額であり、初犯か再犯かという点や検出されるアルコール濃度などにより、実際の罰金額が決まってくるわけです。
1日の日当が200万円になる人もいる!?
労務場留置となる人は、交通違反で罰金刑となった人ばかりではありません。
そのため、信じられないような高額な罰金刑を言い渡されたような人もなかにはいます。
実際に、相続税を29億円脱税した罪で、罰金5億円を言い渡された人が労役場留置処分になったことがあります。
この罰金額を1日あたり5,000円で換算した場合、10万日間の労務場留置ということになってしまいます。
つまり274年も労務場に留置されることになってしまうわけです。
さすがにこれは現実的ではありませんので、裁判所は1日当たりの金額を200万円に換算して250日間の労務場留置という判決を言い渡しました。
1日封筒貼りをした労働の対価が200万円というのは、ちょっとびっくりですね。
250日間封筒貼りをするだけで5億円の罰金がチャラになるということであれば、誰でも喜んで労務場に入ってしまうのではないでしょうか?
まあ、「カンカン踊り」をやらされることに耐えられれば、という条件付きですが。
文・山沢 達也
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