燃費がいいことで知られるハイブリッド車ですが、最新のプリウスの燃費は40.8km/Lとなっています。
つまり、1Lのガソリンで40.8km走れることになるわけです。
これは、JC08モードと呼ばれるテスト方法によるデータのため、実際に公道を走行した場合にはこの8割程度になるといわれていますが、それでも驚くほどの低燃費であることには間違いありません。
しかし、そんな最新のプリウスも真っ青になるほどの低燃費なクルマが存在することをご存知ですか?
そのクルマは1Lのガソリンでなんと3,644km/Lも走ることができるのです!
もちろん、市販のクルマではありません。
エコランという、燃費の良さを競うレースに出場するクルマの大会新記録が、3,644.869km/Lなのです。
エコランに出場するクルマは、いったいどのような仕組みで、1Lのガソリンで3,644km/L も走ってしまうのでしょうか?
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そもそもエコランとはどんなレース?
エコランというのは、決められたコース上で一定の距離を走って、消費した燃料の少なさを競うレースになります。
エコランの正式名称は「Honda エコ マイレッジ チャレンジ」となり、その名称からも分かるように主催は自動車メーカーのホンダです。
1981年に第1回が開催され、2009年までは「本田宗一郎杯Hondaエコノパワー燃費競技全国大会」という名称で行われていました。
参加チームが500ほどにもなる国内最大規模の省燃費競技になります。
公式サイト:https://www.honda.co.jp/Racing/emc/
・使用するエンジンはホンダスーパーカブのもの!
このエコランに出場するクルマに使用されるエンジンは、ホンダ製の50ccのものになります。
エンジンの排気量が50ccと聞いてびっくりする人も多いことでしょう。
軽自動車でさえ660ccもあるわけですから。
もともと、この50ccのエンジンは車用のものではなく、スーパーカブという新聞配達などでおなじみの原付バイクのエンジンなのです。
ホンダでは、エコラン出場チームのために、このスーパーカブ用のエンジンを安く提供しているわけです。
ホンダ製の50ccエンジンの使用が義務付けられているこのエコランですが、エンジンを改造することは自由です。
各チームが、このホンダ製スーパーカブのエンジンを改造して、燃費をよくするための対策を立てて行くわけです。
・ツインリンクもてぎのオーバルコースで燃費を競う
1Lのガソリンで数千kmの距離を走るといっても、実際のレースに出場するクルマが何千kmもの距離を走るわけではありません。
エコランでのクルマのスピードは25km/h~30km/h程度ですから、このスピードで実際に3,600kmも走ろうと思ったら、寝ずに走っても1週間近くかかってしまいます。
実際のレースは、栃木県のツインリンクもてぎにある1周2.37924kmの舗装されたオーバルコース(陸上のトラックのような形のコース)を、平均速度25km/h以上で7周以上周るというルールのもとに行われます。
そして、実際に走った走行距離に対して、どれだけガソリンが減っているのかをチェックして、1Lあたりの走行距離に換算するわけです。
クルマの乗車定員は1名で、3輪以上の車両でなければならないというルールがあります。
ほとんどの出場車両は、前2輪、後ろ1輪の3輪形式になっています。
ちょっとした空気の抵抗が燃費に影響するために、空力を考えた流線型の近未来的なスタイルの出場車両が多くなっています。
・大会記録は2011年第31回大会の3,644.869km/L
1981年に行われた第1回大会(当時は鈴鹿サーキットで実施)では、成蹊大学チームが優勝を飾り、そのときの記録は292.50km/Lでした。
1985年の第5回大会では、ついに1,000km/Lを突破します。
優勝チームは爽風会&SRTで、記録は1,140.00km/Lとなっています。
そして、1994年に行われた第14回大会では、ついに3,000kmオーバーのチームがあらわれました。
優勝チームはTEAM1200で、記録は3,014.71km/Lとなっています。
第1回大会から13年の月日を経て、292.50km/Lだった記録が3,014.71km/Lまで伸びたわけです。
この「Honda エコ マイレッジ チャレンジ」における過去の大会記録は、2011年にチームファイアボールがたたき出した3,644.869km/Lで、その後もこの記録は破られていません。
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エコラン上位チームの燃費向上対策とは?
排気量がたった50ccしかないエンジンを使っているとはいえ、平均時速25km/hで走るクルマの燃費が数千キロに及ぶというのはにわかには信じられません。
いったいどのようなことをすれば、このようなあり得ない数字をたたき出すことができるのでしょうか?
もちろんエンジンの改造だけではこのような数字をだすことは不可能ですので、ボディーの構造やドライバーの運転方法などまで含めたトータルな要因がからみ合って結果を出していることになります。
・ドライバーの腕で燃費が変わってくる?
速さを競うレースではありませんので、ドライバーの腕はあまり関係がないように思われるかも知れません。
しかし、実はエコランにおいてもドライバーの腕の良し悪しによって、その結果に大きな影響を与えてしまのです。
エコランでは、なるべく少ない燃料でクルマを走らせるために、走行中にエンジンを頻繁に停止させます。
時間的には、止まっている時間の方が圧倒的に多くなります。
ある一定の速度(40km/h程度)になるまで一気に加速をさせると、その後はエンジンを停止させてそのまま惰性で走ります。
その後、徐々にスピードが落ちてきて20km/h程度の速度になった時点で、再びエンジンを始動して40km/h程度まで一気に加速をしたあとエンジンを停止して惰性で走らせることになります。
これを、レース終了までずっと繰り返すわけです。
なぜこのようなことをするかというと、ガソリンエンジンというのはある程度まで回転をあげた状態の方が、燃焼効率が良いという特徴があるからです。
ハイブリッド車がスタート時にモーターを使うのは、一番燃焼効率が悪くなる低回転時に、なるべくエンジンに仕事をさせたくないからです。
エコランにおいても、エンジンを低い回転で回し続けて走るよりも、燃焼効率が良くなる高回転まで回して一気に加速をさせて、エンジンを止めて惰性で走らせるほうが結果的に燃費は良くなることになります。
このように、エコランにおいては「燃費をよくするための走り方」がとても重要になるため、ドライバーの腕の良し悪しで結果が大きく変わることになるのです。
ちなみに、エコランのマシンはたった50ccのエンジンで走らせることになりますので、軽量化が低燃費に直結することになります。
マシン自体の重量を軽くすることももちろんですが、運転するドライバー自身が軽量であることも重要になります。
そのため、比較的体重の軽い女性がドライバーとして選ばれることも多いのです。
・燃費をよくするためのエコラン独自の技術
エコランのレースでは、エンジンを始動させている時間よりも、停止をして惰性で走らせる時間の方が圧倒的に長くなります。
そのため、惰性で走るときのネガティブ要因となる空気抵抗や転がり抵抗といったものを、いかに減らすかがポイントとなります。
近未来的なスタイルになっているのは、空気の抵抗を減らすためですし、4輪ではなく3輪のマシンが多いのも、タイヤの転がり抵抗を減らすことが目的なわけです。
エコランマシンの後輪には、自転車の後輪用のものが用いられる場合がほとんどです。
しかし、そのままの状態で使うと転がり抵抗は意外にも大きなものになります。
自転車のペダルを踏むのをやめて惰性で走ると「カチカチカチ...」という音が後輪のハブから聞こえてくると思います。
まさにこの「カチカチカチ...」が転がり抵抗となっているわけです。
それをなくすための方法として「後輪ドグクラッチ機構」などという技術が取り入れられたりしています。
また、エンジンにもさまざまな改造が施されています。
あえて詳細は書きませんが「吸気バルブ休止機構」「燃料カット用電磁バルブ」「ツインプラグ」「滴下式オイル供給」「エンジンの保温」といった改造によって、燃費の向上につなげています。
最後の「エンジンの保温」がちょっと気になる人もいることでしょう。
なぜなら、一般の車のエンジンはラジエーターなどによって冷却するのが基本だからです。
しかし、エコランの場合には、エンジンを動かしている時間よりも停止している時間の方が圧倒的に長いために、エンジンを冷やさないように逆に保温をしてやるわけです。
文・山沢 達也
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