2015年6月の道路交通法の改正をきっかけに、歩道を走る自転車に対する警察の取り締まりが厳しくなったこともあり、車道を走る自転車が増えていました。
ドライバーの中には、車道を走る自転車にヒヤリとさせられた経験がある人も少なくないことでしょう。
猛スピードで車が次々と走り抜けていく横を、自転車がふらふらと走っている様子をみれば、誰だって危ないと感じるはずです。
実際に車道を走っていた自転車が、悲惨な事故に巻き込まれる例も増えているようです。
なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?
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歩行者と歩道を走る自転車による事故の増加
本来であれば、自転車であっても道路交通法では車両にあたりますから、車道を走るのが正しいということになります。
しかし、昭和40年代に車の交通量が急に増えてきたことで、車と自転車の事故が多発するようになったことをきっかけに、自転車で歩道を走ることが認められるようになりました。
当時は、自転車と車の事故を減らすために暫定的にそのようなルールにしたはずですが、それがいつの間にか自転車が歩道を走るというスタイルが定着してしまったわけです。
確かに、自転車が車道ではなく歩道を走るようになってから、自転車と車の事故は減りました。
しかしその一方で、自転車が歩道を走ることになったために、自転車と歩行者の事故が増える結果となりました。
歩行者が死亡する重大な事故なども頻繁に起こるようになり、なかには高額な賠償金が発生する事例なども起きています。
こうした流れを受けて、自転車は原則的に車道を走るというルールが徹底されることになったわけです。
自転車が歩道を走ることを認められているケース
原則的に自転車は車道を走らなければならないわけですが、例外的に自転車が歩道を走ることを認められているケースもあります。
「自転車通行許可」あるいは「普通自転車通行指定部分」といった道路標識があるところでは、自転車が歩道を走ることは特に問題はありません。
また、自転車に乗る人が13歳未満、あるいは70歳以上の場合、あるいは体に障害を持っている人の場合などに限り歩道を走ることが認められております。
もうひとつ「安全のためやむを得ない場合」に限り、自転車による歩道の走行が認められているのですが、これがいまひとつピンときません。
「安全のためにやむを得ない場合」といっても、実際にやむを得ないかどうかは、取り締まりをする警察官の裁量による部分も大きく、なかなか判断が難しいところです。
広義にとらえれば、そもそも自転車が車道を走ること自体が、安全に問題があることになります。
しかし、そういう解釈をすると、すべての自転車が歩道を走ってもいいことになってしまいます。
自転車道路交通法研究会によりますと「安全のためにやむを得ない場合」というのは次のような場合のことのようです。
「路上駐車車両が多く、かつ右側に避けるのが困難な場」
「自動車の交通量が著しく多く、かつ車道が狭い場合」
「煽り運転、幅寄せなどの危険運転や、理由もなくクラクションを鳴らすなど、自動車を用いた暴行行為を行う者がいる場合」
しかし、実際には道幅の広い幹線道路なども、交通量が多いうえに制限速度以上にスピードを出している車が非常に多いというのが実情で、自転車で車道を走るのはかなりの危険を伴います。
車と自転車の接触事故は、即死亡事故につながります。
そういう意味では、「安全のためにやむを得ない場合」との理由で自転車が歩道を走っていいかどうかの判断は、かなり難しいといえるでしょう。
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正しい情報が伝わっていないという現実
13未満の子供や70歳以上の高齢者は、自転車で歩道を走ることが認められていますが、はたしてそういったことがどれだけ一般の人に知らされているのか疑問です。
自転車は道路交通法上では車両ですが、自動車のように運転免許が必要なわけではありませんので、交通ルールをしらないままで自転車に乗っている人も非常に多いことになります。
13歳未満の子供がそういったルールを知らされずに、ただ単に「歩道を走ってはいけない」という無知な大人たちの言葉を信じて、車道を走ってしまうかも知れません。
もしあなたに小さな子供がいるのならば、想像してみて下さい。
交通量が激しく、多くのクルマが猛スピードで通り過ぎる幹線道路の路肩を、あなたの子供がふらふらと自転車に乗っている姿を。
おそらく鳥肌が立つと思います。
そういった、本来きちんと伝えるべきことが伝えられないまま「自転車で歩道を走ったら警察に捕まる」という情報だけが、一人歩きしているわけです。
厳しく取り締まるのならば、警察は本来のルールをしっかりと自転車に乗るすべての人に伝えなければならないのは当然のことです。
どうも「自転車は原則的に車道を走る」というルールだけが、必要以上に先走りをしてしまっているような気がしてなりません。
自転車が危険をおかしてまで車道を走る理由
自転車が車道を走ることの危険性は十分に理解できたかと思いますが、自分の命の危険をおかしてまでなぜ自転車に乗る人は車道を走るのでしょうか?
車同士の事故と違い、自転車に乗っている人は生身ですから、車と接触事故を起こせば即座に命にかかわります。
もちろん、警察官に注意をされたくないという気持ちもあると思いますが、それだけの理由で命をかけてまで車道を走るのは馬鹿らしいことです。
実は、自転車が道路交通法に違反した場合の罰則は、思った以上に厳しいという現実があるのです。
自転車が歩道を走った場合の罰則は「3年以下の懲役または5万円以下の罰金」となっています。
懲役という言葉をみてビックリした人もいると思いますが、道路交通法に厳密に従うとこうした罰則になるようなのです。
しかし、実際には自転車で違反をしたからといって、いきなり摘発されて懲役になったり罰金刑を科せられるということはまずありません。
2015年5月までは、自転車によるそういった違反があっても、簡単な注意程度で済んでいたというのが実情です。
しかし、2015年6月の法改正以降は、自転車による危険通行によって警告のキップを切られたり、事故を起こしたりということが3年間のあいだに2回以上あった場合には、安全講習を受けることが義務付けられました。
5700円を支払って3時間の講習を受けさせられ、最後には感想文(反省文?)まで書かされます。
もしこの講習の通知が来ても3か月以上無視して応じなかったりすると、5万円以下の罰金もあり得るようです。
いずれにしても、一部のマナーの悪い人が自転車で歩道を走って歩行者と事故を起こすということが重なったばかりに、それ以外の多くの自転車に乗る人やドライバーは大変な迷惑をこうむることになりました。
今後、国や警察には抜本的な対策を考えてもらわないと、いずれ車と自転車の接触による悲惨な事故が多発することになるでしょう。
文・山沢 達也
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